計画研究
1.培養上皮細胞を用いた解析:MDCK細胞を用いたSrc活性の誘導系において、Src活性化細胞が活性レベルに依存して正常上皮層の下部に排斥される現象を見出した。Src発現誘導系においては、Src発現細胞がapical側に排除されたのちアポトーシスで死滅することを観察した。また、3次元培養系においてもSrc発現細胞がapical側に排除されることが確認された。さらに、Srcの負の制御因子であるCskの機能抑制による競合現象の解析を行い、Src活性化レベルと細胞競合現象との関連性を検証した。以上の結果から、ある閾値を超えたSrcの活性化により細胞競合現象が駆動されることが明らかとなり、その閾値を規定するSrcの基質蛋白質の同定を現在進めている。また、上皮系がん細胞集団におけるSrc活性化細胞の挙動の解析を行い、正常細胞と同様にSrc活性化細胞が集団から逸脱する現象を観察し、その分子基盤の解明に着手した。2.マウスモデルを用いた解析:iMOSシステムを用いてモザイク状に活性化Srcを発現誘導するマウスモデル系の作製に成功し、表皮におけるSrc活性化細胞の挙動を解析した。その結果、Src活性化細胞の比率が経時的に変化することが見出された。3. ゼブラフィッシュモデルを用いた解析:昨年度までに構築した系を用いて解析を行い、初期胚に生じたWnt経路異常活性化細胞が周辺細胞とのWnt経路の活性の差を感知してアポトーシスを起こして消失することを見いだした。また、Wnt経路異常活性化細胞を少数生じさせた胚は正常に発生したが、この異常細胞のアポトーシスを阻害すると、胚発生に異常が生じた。このようなことから、このWnt経路異常活性化細胞の排除は、初期発生プログラムの頑強性を支える重要なシステムであると考えている。また、皮膚においてSrc活性化細胞の細胞競合をライブイメージングする系を確立した。
2: おおむね順調に進展している
ゼブラフィッシュの系においては、皮膚においてSrc誘導性の細胞競合を解析する系を構築することが出来た。本系を応用することでRas誘導性の細胞競合を観察することも出来た。今後本系を用いることで、がん原性細胞の排除の分子メカニズムの発生遺伝学的解析、イメージング解析が容易になり、本領域の細胞競合研究を大きく推進することが期待される。また、ゼブラフィッシュ初期胚においてWnt経路異常細胞の細胞競合の排除が起こることを突き止め、この排除が正常な胚発生を支える重要なシステムであることを見いだした。さらに、培養上皮細胞系やマウスモデルの系についても、昨年度までに完成した実験系を用いて細胞競合現象を注意深く観察することにより、現象の検証および分子基盤解明の土台を築くことができた。このように、本研究は順調に進展していると言える。
1.培養上皮細胞を用いた解析、及び2.マウスモデルを用いた解析: 2015年度までに確立した実験系を用いて生化学的および分子生物学的な解析をより詳細に行うことにより、細胞競合現象の鍵を握る新たな分子の同定とその機能解明に駒を進める。3. ゼブラフィッシュモデルを用いた解析: 2015年度までに確立した系を用いて、Wnt経路、Src経路による細胞競合の分子メカニズムを解明する。また、上述の系は、細胞排除のメカニズムを解析するのには適しているが、長期的な細胞の観察や、細胞競合と腫瘍形成の関係の解析には不向きである。このため現在は、ゼブラフィッシュの稚魚・成魚の特定の臓器の上皮にWnt経路異常活性化細胞を誘導する実験系の構築も進めている。組換え動物の作成には動物の成長や次世代取りに時間がかかるため、後者の系の完成までには時間を要することが予測される。このため、前者の系を用いてメカニズム解析をすすめつつ、後者の系の完成を待つ予定である。上述の研究を、研究領域内の研究者と協力しつつ、効果的に進めて行く。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 2件、 招待講演 7件)
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