計画研究
細胞競合では、競合の勝者となる細胞は、隣接細胞の適応度の相対的な低さを感知してこれを敗者細胞として認識し、自身あるいは敗者細胞の細胞内シグナル伝達経路を制御して、敗者細胞の細胞死や細胞層からの離脱を誘導すると考えられる。最近の研究により、これら一連の過程に細胞間接着が重要な役割を果たすことが示唆されている。しかし、細胞競合に関わる細胞間接着分子の実態やその作用機構はほとんど解明されていない。本研究では、哺乳類培養細胞競合モデルを用い、生化学的・分子生物学的手法により、細胞競合に関与する未知の細胞間接着分子を網羅的に単離・同定する。また、同定した新規接着分子群、並びに申請者が以前に見出した細胞間接着分子ネクチンやNeclを含む既知の細胞接着分子群の細胞競合における機能と作用機構を解析する。さらに、これらの細胞間接着分子群のノックアウトマウスの解析などを通じ、細胞競合の生体レベルでの解析を行う。平成26年度は上述した課題のうち、哺乳類培養細胞競合モデルを用い、ネクチン、Necl、およびネクチンの裏打ちタンパク質アファディンが細胞競合に関与するかの検討を行った。また、個体レベルでの細胞競合現象の解析のため、ネクチン-4のノックアウトマウスの作成に着手し、ヘテロマウスの作成まで完了している。さらに、ネクチン-1のコンディショナルノックアウトマウスの作成にも着手した。また、がん細胞の休眠-覚醒の競合を制御する分子機構を解析したところ、膜受容体CXCR4の関与を見出し、休眠状態のがん細胞ではCXCR4の発現が低下し、覚醒状態のがん細胞ではCXCR4の発現が上昇していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、哺乳類培養細胞競合モデルを用いた既知の細胞接着分子群の細胞競合における機能と作用機構の解析が進んでいる。また、個体レベルでの細胞競合現象の解析のために必要なマウスの作成も順調に進んでおり、今後の解析も順調に遂行できると考えている。また、研究代表者が新たに見出したCXCR4によるがん細胞の休眠-覚醒の競合の制御機構は、医学的に未解決であるヒト乳がん細胞が転移先の組織・臓器で増殖を停止して休眠し、その後再増殖して再発するという問題の解明に向けた端緒になると考えられ、今後の発展が期待できると考えている。
前年度に引き続き、細胞競合を誘起することが報告されている哺乳類培養細胞系を用いて、細胞競合を制御する未知の細胞間接着分子を生化学的スクリーニングによって同定する。スクリーニングで得られた抗体は、細胞競合現象を検出するツールとなることが期待できる。ネクチンやNeclは異種細胞間接着のみならず細胞内シグナル伝達へ寄与することから、細胞競合時に変化するシグナル伝達を制御する細胞間接着分子である可能性がある。そこで、平成26年度に引き続いて、ネクチンやその他の基地の細胞間接着分子の細胞競合への関与を検討する。具体的には、哺乳類正常上皮細胞と上記変異細胞を混合培養し、ネクチン、Necl、およびその他の細胞間接着分子の局在を免疫染色にて調べ、正常細胞と変異細胞の細胞間に濃縮して局在しているかを調べるとともに、それらの分子を過剰発現あるいはノックダウンすることで、細胞競合への影響を検討する。細胞競合への関与が認められた分子については、それらが制御する下流の細胞内シグナル、およびそれを介した細胞競合制御機構を解析する。具体的には、細胞骨格の再編を制御する分子として低分子Gタンパク質を、細胞の生存を制御する分子としてPI3キナーゼやc-Srcを中心とした経路の細胞競合における役割と分子機構を解析する。個体レベルでの細胞競合現象の解析のため、ネクチン-4のノックアウトマウス、およびネクチン-1のコンディショナルノックアウトマウスの作成を進め、各組織におけるネクチンと細胞競合の関与を解析する。さらに、CXCR4によるがん細胞の休眠-覚醒の競合を制御する分子機構の解析を引き続いて行う。
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