計画研究
本研究は新学術領域班において、正常上皮細胞と変異細胞間に生じる細胞競合の分子メカニズムの解明を担当し、異なる細胞間の境界で特異的に機能する分子群を様々な手法にて同定・解析することを大きな目的としている。さらに、細胞競合マウスモデルシステムを用いて、スクリーニングで同定された分子の機能を解析することを目指している。特に、本研究では正常上皮細胞に隣接する変異細胞側に生じる細胞非自律的な変化に焦点を当てて解析を進めている。平成28年度は変異細胞に生じる2つのプロセスについて大きく研究が進展し、論文として発表することができた。まず、正常上皮細胞に囲まれたRas変異細胞において、Rab5が細胞非自律的に集積し、またクラスリン依存性エンドサイトーシスが亢進していることを見出した。さらに、この変異細胞におけるエンドサイトーシスの亢進が、変異細胞の上皮細胞層からの排除に重要な働きを果たしていることが分かった。それに加えて、正常上皮細胞との細胞間接着部位においてE-カドヘリンのエンドサイトーシスが亢進していること、エンドサイトーシスの亢進が変異細胞内における細胞骨格タンパク質EPLINの集積を誘起していることも明らかにした。これらの知見についてはPNAS誌に発表した。さらに、正常上皮細胞に囲まれたRas変異細胞において、ミトコンドリアの活性低下と解糖経路の活性化が生じていることが分かった。またミトコンドリアの活性低下はPDK4の発現上昇によってもたらされていることを突き止めた。さらに、PDK阻害剤の添加によって、Ras変異細胞の上皮層からの排除が抑制されることが明らかになった。これらのデータは、がんの超初期段階においてWarburg効果様の代謝変化が生じ、またその発生に細胞競合が関与していることを示している。これらの知見については、Nature Cell Biology誌にアクセプトされた。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、正常上皮細胞に囲まれた変異細胞内において生じる細胞非自律的な変化の解明を目指すものである。これまでに研究は当初の計画を越え、順調に進展している。平成26年度にEPLINとVASPという二つの重要な制御因子を同定し、それぞれについて論文で発表した(Anton et al., 2014, JCS; Ohoka et al., 2015, JCS)。さらに、平成27年度は、エンドサイトーシスと代謝変化という二つの細胞プロセスが細胞競合に関与することを突き止め、それぞれ一流誌に論文がアクセプロされた(Saitoh et al., PNAS, 2017; Kon et al., Nature Cell Biology)。さらに、スクリーニングによって複数の分子の同定に成功しており、これらの機能解析によって正常細胞と変異細胞間に生じる細胞競合の全貌が明らかになることが大いに期待できる。また、最近新たにマウス体内の様々な上皮組織にがん原性の変異をタモキシフェン投与によってモザイク様に誘導することのできる新たな細胞競合マウスモデルを開発することに成功した。現在様々な上皮組織における細胞競合現象を解析中であるが、がん遺伝子の変異の重ね合わせによって細胞競合現象が大きく影響を受けることや、上皮組織によって細胞競合発生の頻度が異なることなど、興味深い知見が次々と明らかになっている。このように研究は順調に進展しており、これからの2年間の研究発展が大いに期待できる。
平成28年度に明らかにしたエンドサイトーシスとWarburg効果様の代謝変化については、その上流及び下流で機能する分子群の同定・機能解析を進めていく。実際に、オートファジーやERストレスが細胞競合現象に関与していることを掴みつつあり、これらの知見をさらに発展させていく。さらに、さまざまなスクリーニングを継続するとともに、これまでのスクリーニングで同定した分子については、その機能解析を哺乳類培養細胞系とマウスモデルを用いて推進していく。それに加えて、最近確立した新規細胞競合マウスモデルを用いて、細胞競合がどのようにがん化に関与しているかを詳細に調べていく。また研究分担者とともに、正常上皮細胞と変異細胞間に生じる細胞競合への脂質の関与についても研究を進めていく。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件)
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巻: 7 ページ: 44328
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