研究領域 | ステムセルエイジングから解明する疾患原理 |
研究課題/領域番号 |
26115003
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
西村 栄美 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (70396331)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 色素幹細胞 / 老化 / 分化 / ニッチ / 癌 / ストレス / メラノーマ |
研究実績の概要 |
組織は加齢とともに機能低下を伴う典型的な加齢変化を示すと同時に、癌の発症頻度も増加する。毛包は典型的な幹細胞システムを形成しており、幹細胞とニッチの相互作用によりその恒常性を維持している。白髪は脱毛と並んで最も典型的で一般的な老化形質の一つである。申請者らは2002年に黒髪のもとになる色素幹細胞をはじめて同定し、加齢やゲノムストレスによりその維持が不完全となり白髪を発症することを明らかにした。色素幹細胞は、放射線照射などのゲノムストレスや加齢によって、幹細胞が自己複製しなくなって枯渇するのに対して、DMBAや紫外線などの皮膚発癌促進性のゲノムストレスに対しては異なる挙動を示し、むしろ自己複製が促進することを見出している(未発表データ)。そこで、ゲノムストレスの質の違いに対応して、色素幹細胞において特異的な変化や運命転換等が起こるのかどうか、生理的な加齢変化(ステムセルエイジング)と比較しながら解析をすすめた。これまでに色素幹細胞と隣接する毛包幹細胞がニッチ細胞としての役割を果たすことを明らかにしており、毛包幹細胞における白毛化促進性または発癌促進性のストレス応答が存在することを想定し、それぞれの分子実体の同定、ストレス応答タイプごとの色素幹細胞の運命と白毛化かメラノーマかの運命の振り分けとの関係性について検証した。その結果、とくに発癌誘発性のストレスによって誘導される毛包幹細胞由来のニッチ因子について複数の候補が得られ、毛包幹細胞特異的に欠損させたり過剰発現するマウスの解析をすすめた。これらの研究から、幹細胞が組織を老化させるか癌化へと導くか、いずれかの運命を決定する仕組みが明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題においては、色素幹細胞における老化ストレスと制御機構の解明をめざすものであるが、そのアプローチの中で我々は毛包だけではなく汗腺内にも色素幹細胞が存在することをはじめて見出し、加齢に伴って分化した細胞を供給しやすくなる現象やメラノーマでは増殖像や癌遺伝子の増幅が見られることを見出し、さらにメラノーマのオリジンとなりうる可能性まで示すことが出来た。加齢に伴って色素幹細胞ニッチの構築変化が見られ、毛包そのものがミニチュア化することを明らかにした。そこで、若齢と高齢のマウスの皮膚から毛包幹細胞を純化し、老化シグネチャーの同定を行ったところ、色素幹細胞の枯渇に先立ってその維持に必須である17型コラーゲンを含め、毛包幹細胞の制御分子の発現が変化していることを明らかにすることが出来た(Matsumura H et Science 2016)。さらに、環境ストレスのなかでも発がん誘発性のストレスによって誘導される毛包幹細胞由来のニッチ因子についても複数の候補があがり、色素細胞の発生に重要な因子が検出された。当該因子を毛包幹細胞特異的に欠損させるマウスの作成と解析を順次進めている。
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今後の研究の推進方策 |
色素幹細胞、および毛包幹細胞の加齢に伴う遺伝子発現変化に加えて、エピゲノム変化、ならびに染色体異常などゲノム変化、さらに白毛化促進性または発癌促進性のゲノムストレス下で見られる遺伝子発現変化とゲノム・エピゲノム変化に着目し、ニッチ因子由来のシグナルが大きく組織の運命を決めている可能性について明らかにする。
これらのマウスにおける幹細胞運命の解析から、加齢によって、あるいは様々な環境ストレスに対応して組織が変容していくメカニズムの本体を詳細にわたり明らかにしていく予定である。これらの研究を通して癌の発生の再初期段階が、幹細胞システムのどのような契機によっておこってくるのか明らかにし、診断や治療へと役立てて行く予定である。
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