計画研究
多彩な加齢関連疾患を発症するα-klotho変異マウスにおけるビタミンD、リン酸濃度の顕著な亢進などの代謝異常が、どのようにステムセルエイジングに関わるかについて解析を進めている。これまでに、α-klotho KOマウスでは、早期老化症状の発症に伴い、顕著な組織破壊、代償性の幹細胞増殖に続く幹細胞の枯渇が起こることを確認した。特に海馬に焦点を当てて解析し、一過性の幹細胞の増殖亢進と幹細胞の減少について詳細に解析した。海馬ではα-klothoの発現が確認されたことから、特異的KOマウス作成し、解析中である。次いで、組織破壊の要因として、活性型ビタミンD、エオタキシン(CCL11)、炎症反応の顕著な亢進、Calpain-1の機能亢進、細胞死シグナルの活性化と続く、シグナルカスケードが明らかとなり、Calpain1阻害剤 (Sci Rep 2014)、6-MSITCの投与により組織破壊が抑えられることを確認された。一方、α-klotho KOで観察される海馬の神経幹細胞、膵臓β細胞、筋幹細胞の減少に、幹細胞局所で発現するα-Klothoに加えて、ビタミンD結合蛋白 (DBP)、VDRシグナルが関与する可能性が示唆された。膵β細胞が減少している糖尿病モデルマウスにエストロジェンを投与すると幹細胞から大量のβ細胞が誘導されることも明らかとなり、エスロジェンによる膵臓の幹細胞増幅活性に関して解析を進めている。血糖値維持に関連して、α-klotho KOマウス血糖値維持機構の異常について解析し、インクレチンの合成、分泌促進が関与することを見いだし、さらに詳細な機構の解明へと進んでいる。
2: おおむね順調に進展している
早期老化マウスモデルであるKlotho変異マウスでは顕著な老化症状、組織損傷が観察されれる。その分子機構解明が進み、電解質代謝異常、カルパイン1の活性化、細胞死シグナルカスケードの活性化、顕著な組織破壊、炎症の誘導、CCL11の発現亢進、細胞死/組織破壊へと繋がる回路が解明された。加齢に伴い血中濃度が増加し(ヒト、マウス)、(パラビオーシスにおいて)若いマウスの幹細胞の老化を誘導する因子として注目されているCCL11/eotaxinが特に組織破壊が強い組織で強く発現が誘導されていることが明らかとなり、CCL11の発現亢進、血中濃度の増加が、動脈硬化、肺気腫など、広く老化症状の発症に関わることが示唆される結果となった。一方、顕著な老化症状、組織破壊の亢進は、代償的な組織修復機転を誘導し、幹細胞の増殖亢進を引き起こすが(発症前の3週齢では幹細胞の増殖亢進は起こっていないが、5週齢では海馬の神経幹細胞が多量に観察される)、2ヶ月程の間に、幹細胞は大きく消耗、枯渇することが明らかとなり、Klotho変異マウスは幹細胞の増殖亢進、枯渇を解析する優れたモデルであると結論され、幹細胞老化の分子機構解明の基盤が形成された。
これまで、a-Klotho変異マウスの老化類似症状の進展に伴い、海馬の神経幹細胞、小腸の幹細胞などの減少を確認し、その要因を解析してきた。また、a-Klotho変異マウスにおいて老化類似変異表現型の発症をもたらす悪循環回路、すなわち、ビタミンD、リンの亢進、炎症性サイトカインの亢進、ケモカイン、グランザイムなどの組織損傷免疫応答の亢進、カルパインの機能亢進からなる悪循環回路を見いだした。この事実に基づいて以下の研究を進める。1)悪循環回路を抑制すると老化類似症状が改善する。この際の幹細胞の振る舞いを解析する。2)免疫系の組織損傷応答機構の解析を進める。3)損傷した組織、細胞を取り除く機構、すなわち、スカベンジャーシステムが老化病態にどのように関わるかを解析する。また、スカベンジャー機能をもつ分子が老化細胞の除去に関わるかを解析する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 7件)
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