体性幹細胞は周囲の微小環境(ニッチ)によって制御されることでその機能を発揮して、臓器や個体の恒常性を維持する。定常状態のニッチの同定は進んでいるが、加齢に伴うニッチの変容や、その結果いかなる影響が幹細胞に及ぶか不明である。本研究では、複数のニッチが重層的に幹細胞に作用する造血幹細胞システムを主たるモデルとしてこの問題に挑む。具体的には加齢に伴う各種骨髄ニッチ細胞やニッチ因子の変容と、造血幹細胞への影響を明らかにすることを目指した研究を展開してきた。また、加齢ニッチにおけるsenescence-associated secretory phenotype(SASP)の誘導機構を含む、既存の老化研究のパラダイムを造血幹細胞ニッチで検証し、その分子的実体を明らかにすることも目指した。さらに、イメージングマウスを用いて、ニッチ-幹細胞間相互作用の変化や造血幹細胞動態、メタボロームの変容についても実施した。最終年度は、まず造血幹細胞ニッチの加齢変化が造血幹細胞へ及ぼす影響の時空間解析を行い、前年度までに同定している造血幹細胞ニッチの加齢変化に関与する分子機構の遺伝子改変動物の血液学的・幹細胞生物学的解析を実施した。また、加齢造血幹細胞におけるp38MAPK経路の真の機能の検討を行い、p38MAPKの造血幹細胞エイジング誘導および維持における機能を遺伝子改変マウスの血液学的・幹細胞生物学的解析を実施した。特に生理的老化と早老症モデルにおけるエイジング機構の異同について着目した検討を進めた。さらには、造血幹細胞とニッチの加齢変化の指標候補の同定・検証を進め、トランスクリプトームデータに基づいた同定した造血幹細胞とニッチの加齢変化を反映する指標や、バイオマーカーの候補が加齢動物の個体間で再現性良く幹細胞ニッチのエイジングを同定できるか検討を行った。また、既存の細胞老化マーカーが幹細胞ニッチのエイジングにおいて信頼できる指標となるかの批判的検討を試みた。
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