幹細胞を頂点とした階層構造を持つ組織を数理モデリングによって仮想的に構築し、細胞の特性を表すパラメータを網羅的に変化させることで、組織破綻に対する頑強性の評価をモンテカルロ法を用いた確率シミュレーションによって実施した。前年度に引き続いて、細胞が分化していき最終的に機能細胞になって死んでいく中で、一定時間組織内に留まっている突然変異の平均数に関する理論式の導出も行った。さらに、造血組織や大腸組織、脳組織など特定の組織構造において、実験データに基づいたパラメータを収集し、重要となる特性変化の解明を行った。これまでの結果として、分化した細胞の分裂回数と細胞の数が多いと幹細胞における突然変異の蓄積率が低くなりがん発症までの待ち時間が長くなること、複数の突然変異が必要となる場合においては、幹細胞の数が大きい方ががん発症までの待ち時間が短くなることがわかった。さらに、末梢の機能的細胞の1日あたりの必要数が多い場合に突然変異蓄積率が上がることがわかった。これらの結果によって、正常細胞ががん細胞に変性するために必要となる突然変異の数と組織構造の複雑さに関する関係性を明らかにすることが出来た。 これらの研究の一部として、がん進展に関する論文をJCO Clinical Cancer Informatics誌(Mar;3:1-11.)とPLoS One誌 (Apr 26;14(4):e0215409.)に発表した。
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