計画研究
腸管上皮細胞は腸内細菌や食餌抗原などの様々な異物に対するバリアーとなるとともに,‘生理的炎症’に常に曝されている.このような過酷な環境において,腸管上皮幹細胞は遺伝子変異やエピゲノム変化を加齢とともに蓄積していくと考えられる.このようなステムセルエイジングは,加齢に伴う大腸がんの発症率上昇や潰瘍性大腸炎のがん化に寄与すると考えられる.我々は,通常の大腸がんも含め,慢性的な炎症ストレスシグナルがステムセルエイジングを介した発がんを導くと考え,本研究を考案した.佐藤らはこれまで不可能であった腸管上皮幹細胞培養技術の開発に成功し,幹細胞の加齢現象を細胞生物学的に追及することができる(Nature 2009, Nature Medicine 2011). 既に,ヒト腸管上皮幹細胞はマウスに比し細胞ストレスに対して高い感受性をもつことを見出しており(Gastroenterology 2011),長寿命であるヒトの組織を用いたステムセルエイジング研究に着目した.本研究は加齢に伴う腸管上皮幹細胞の(エピ)ゲノム・トランスクリプト―ム変化と幹細胞機能異常を包括的に理解し,加齢を誘導する分子およびシグナル機構を解明することを目的とする.さらに,加齢分子メカニズムに基づいた人工的な加齢誘導モデルを作製し,加齢変化を抑制する全く新しい発がん予防治療の創出を目指す.また,包括的ゲノムデータを数理化し,ステムセルエイジングによる大腸がんハイリスクグループの予測を目指す.慢性炎症による発がんは本邦で発症率の高い慢性胃炎や慢性肝炎などを背景とするため,本研究の成果は我が国のライフサイエンスの進展ならびに健康長寿社会の実現につながると考える.
2: おおむね順調に進展している
平成26年度に計画していた,潰瘍性大腸炎患者及び健常者の臨床大腸粘膜サンプルからのオルガノイドクローン樹立ならびにエキソーム解析を8検体終了している.また,TP53変異を可視化したVillinCreER/RosaLacZ/TP53fl/flマウスに Dextran Sodium Sulfateの定期的投与を行い,TP53変異腸管上皮クローンの腸炎による領域拡大への寄与を検討した.TP53変異頻度と腸炎の期間に応じて大腸がんを発症頻度が変化することを見出し,九州大学 波江野共同研究者との数理モデルのためのデータ収集を行っている.現在まで,実験計画は計画通り進んでいる.
研究は計画通り進んでおり,また,当該研究室でこれまでに蓄積されたオルガノイド技術のノウハウを有効利用することにより,順調に研究を推進できると考えている.また,ヒト疾患におけるステムセルエイジングの関与を臨床サンプルを用いた研究手法から解明していく.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) 学会発表 (14件) 図書 (3件)
eLife
巻: e11621 ページ: 1-19
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.11621
The Journal of Cell Biology.
巻: 3 ページ: 1474-1485
10.1038
Nature protocol
Digestion
巻: 91 ページ: 233-238
10.1159/000375302
Cancer Prev Res.
巻: 8 ページ: 492-501
10.1158/1940-6207.CAPR-15-0025-T