計画研究
様々な組織において、血管は幹細胞の重要なニッチ細胞として働き、幹細胞の維持や機能制御に関わっている。しかしながら、加齢に伴う血管のニッチとしての数的・機能的変化の実態や、それに伴う幹細胞の変化(ステムセルエイジング)の詳細は明らかではない。一方、「ヒトは血管から老いる」と言われるように、加齢や過栄養などのストレスによって、まず血管においてp53依存性老化シグナルの活性化が惹起され、その後、組織の機能不全や再生能力の低下が誘導されることを、申請者らは示唆してきた(Nature 2007, Nat Med 2009, Cell Metab 2012)。すなわち、血管ニッチにおけるp53依存性老化シグナルの活性化が、組織幹細胞システムの不調をもたらすことで、組織の生理的老化や病的老化の形質発現に関与し、加齢関連疾患の発症・進展の要因の一つとなっている可能性がある。そこで本研究では、血管ニッチの加齢変化の実態を明らかにし、血管老化マウスモデルを足場として、血管ニッチの加齢変化が、骨格筋、心筋組織、骨髄をはじめとした臓器・組織の幹細胞システムに与える影響を検証する。さらに、p53依存性老化シグナルを血管特異的に操作することにより、血管ニッチを中心とした微小環境の形質変化が組織幹細胞の劣化を促進するメカニズムについて包括的に検討する。これらの解析を通して、『血管ニッチの加齢変化に伴う組織幹細胞システムの障害と、加齢関連疾患(心不全やサルコペニア、造血機能障害など)との関連』を実証し、その治療・予防標的を同定したい。既に領域内共同研究により、上記の仮説を支持する研究結果が得られつつある。さらなる連携を通して、血管ニッチの破綻と臓器機能不全という新たな疾患概念に基づいた病態研究領域の確立を目指す。
2: おおむね順調に進展している
申請者らはこれまでの研究において、組織特異的p53ノックアウトマウスモデルを確立し、心臓や脂肪組織におけるp53の活性化が、それぞれ心不全や糖尿病の発症に重要であることを明らかにした。これまでの検討により、加齢や過食などのストレスによって、まず血管においてp53シグナルが活性化し細胞老化様形質が出現する。その後、臓器の機能異常が進行することを観察している。この際、血管ニッチにおけるp53依存性老化シグナルの活性化が、ニッチと組織幹細胞とのコミュニケーションの不調を誘導し、臓器・組織の機能不全や再生能の低下をもたらしている可能性が想定される。この仮説を検証するため、まず、タモキシフェンによってp53の抑制因子であるMdm2の欠失を血管特異的に誘導するシステムを用いて、血管内皮特異的にp53シグナルを活性化するマウスモデルを確立した。本モデルにおいて、アセチルコリンによる血管拡張反応が低下していることや、虚血刺激に対する血管新生能が低下していることなどを明らかにした。また、心不全モデルや早老症モデルマウスにおいて、血管における細胞老化シグナルが活性化しており、それに伴って組織の再生能力が低下していることを示唆するデータも得ている。以上の結果より、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
血管内皮特異的p53活性化マウスにおいては、組織幹細胞機能について、主に骨髄組織や心臓、骨格筋を対象に解析を行い、FACSや培養などで表現型・機能を検証するとともに、骨髄移植・放射線傷害モデル(骨髄)や凍結傷害モデル・ニードル傷害モデル等(心筋・骨格筋組織)により血管ニッチの加齢変化に伴う幹細胞の組織再生能や臓器機能の変容を検証する。血管ニッチにおけるp53活性化がどの程度関与するのかを検証するため、加齢モデルや早老マウスモデル、放射線障害や過栄養ストレスモデルを作製し、血管特異的なp53の欠失により、組織幹細胞(骨格筋、心筋や骨髄)の機能性変化をどの程度レスキュー可能か、FACSや病理学的解析、質量分析顕微鏡を用いて検討する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 1件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 15件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件、 招待講演 11件) 図書 (30件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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