計画研究
本研究においては、組織幹細胞の恒常性維持に重要な血管ニッチに焦点を当て、加齢に伴う血管のニッチとしての数的・機能的変化の実態や、それに伴う幹細胞の加齢変化と疾患の詳細を明らかにする。具体的には、血管老化制御マウスモデルを樹立・解析し、血管ニッチの加齢変化が組織幹細胞システムに与える影響について、心筋・骨格筋や骨髄組織において検証する。特に、血管ニッチを中心とした微小環境の加齢変化が組織幹細胞の劣化を促進し、加齢関連疾患の発症または進展に関与する可能性を検証し、血管ニッチの加齢変化が背景にあると考えられる加齢関連疾患(心不全やサルコペニア、骨髄不全)の治療・予防標的の同定を目指す。これまでの検討により、心不全時にはp53シグナルの活性化を介して血管内皮細胞が老化すること、血管内皮細胞老化によって心不全の病態が増悪することを報告した。また、病的老化を促進する過栄養ストレスにより肥満ストレスにより血管のp53レベルが増加し、その結果骨格筋機能不全がおこり、全身性の糖代謝異常が増悪することを明らかにした。さらに、p53シグナルの増強を介して血管内皮細胞特異的に細胞老化を促進・抑制したマウスモデルにおいて、それぞれ血管機能が低下・改善することも明らかとなった。これらの知見は、血管内皮細胞の加齢変化が局所の組織のみならず、全身の臓器のエイジングに影響を持つことを如実に示している。
2: おおむね順調に進展している
フレイルは高齢者に認められる老年症候群であり、環境因子に対する脆弱性が高まった状態であるが、重症心不全にフレイルが合併し予後不良因子となることが最近明らかとなってきた。フレイルを構成する身体的側面としてサルコペニアが重要であり、骨格筋におけるサテライトセルの枯渇・機能不全が中心的病態と考えられている。サテライトセルは筋線維の筋形質膜と基底膜の間に存在し、生理的、病的シグナルにより分化増殖し、既存の筋線維と融合することで骨格筋の恒常性を維持する。骨格筋の恒常性は微小血管を介した酸素や栄養の送達性により制御されているが、血管ニッチの老化の持つ病的意義は十分検討されていない。本年度我々は、心不全時には心筋組織内で血管内皮細胞老化が生じることを観察しており、心不全時には骨格筋においても血管ニッチの老化が促進し、サテライトセルの機能異常を介してサルコペニア様の病態に陥るという仮説を検証した。左室圧負荷モデルマウスを作製すると、骨格筋の血管内皮細胞においてp53レベルが上昇し、細胞数が減少することが明らかとなった。心筋梗塞モデルマウスにおいても同様の傾向を確認することができた。左室圧負荷モデルマウスの骨格筋は、低酸素状態となり活性酸素レベルが上昇することもわかった。左室圧負荷心不全時の骨格筋のメタボローム解析(連携研究者曽我との共同研究)により、解糖系代謝物質の低下が生じること、電子顕微鏡上骨格筋のミトコンドリアの著明な腫大化とクリスタの異常が生じることが明らかとなり、これらの変化は筋線維の菲薄化を伴っていた。心不全に伴う低酸素シグナルにより、骨格筋におけるダイナミックな代謝リモデリングが生じ、活性酸素の上昇や血管ニッチの老化を介して骨格筋再生システムの恒常性破綻が生じる可能性が示唆された。以上のように、研究としては概ね順調に進んでおり、期待通りの成果が得られている。
心不全に伴う低酸素シグナルにより、活性酸素の上昇や血管内皮細胞老化を介して骨格筋再生システムの恒常性破綻が生じる可能性が強く示唆されている。サテライトセルが減少傾向を示しているが、実際に骨格筋修復過程が抑制されるかカルディオトキシン等を用いた骨格筋傷害モデルで検討を行う。血管内皮細胞老化が一連の病態の引き金となるか検討するため、血管内皮細胞特異的細胞老化促進モデル(Cdh5-BAC-CreERT2 x Mdm2flox/flox, Cdh5-BAC-CreERT2 x Mdm4flox/flox)、血管内皮細胞特異的細胞老化抑制モデル(Cdh5-BAC-CreERT2 x p53flox/flox、Cdh5-BAC-CreERT2 x p21flox/flox)を作製し、表現型を解析するとともに、これらのマウスに心不全を誘導(左室圧負荷術、心筋梗塞術)、もしくは拡張型心筋症モデルマウス(129-Tnnt2tm2Mmto)との交配を行い、サテライトセルの細胞老化の評価とともに、骨格筋恒常性に与える影響を検討する。さらに、血管内皮細胞老化制御モデルマウスにおいて、肥満や糖尿病モデルを作製、もしくは早老モデルマウス(Zmpste KOマウス)との交配を行い、骨格筋損傷モデルを作製して血管ニッチと幹細胞システムの検討を行う。骨髄血管ニッチの老化と造血機能の関連について(岩間・田久保らとの共同研究)は、現在の血管内皮細胞特異的細胞老化促進モデルに加えて、血管内皮細胞特異的細胞老化抑制モデルも用いて解析を進め、血管ニッチと造血幹細胞システムに関連するメカニズムのさらなる解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (16件) (うち査読あり 16件、 オープンアクセス 16件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 13件、 招待講演 22件) 図書 (11件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件)
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