計画研究
再生不良性貧血(AA)は、自己免疫機序による造血不全であるが、一部の症例で骨髄異形成症候群(MDS)を発症する。そこで、AAの臨床検体を用いて継時的なクローン変化を遺伝学的に解析した。その結果、約半数の症例で、MDSへの進展の有無に拠らず、クローン性造血を認め、MDSや加齢に伴う遺伝子変異と共通した変化がしばしば観察された。血液疾患を有さない高齢者においてクローン性造血を示す知見が報告され、造血幹細胞(HSC)の老化、さらには造血器腫瘍との関連が示唆されるが、AAにおいても類似した病態が生じていると推察された。現在、同様の解析を遺伝的早老症であるWerner症候群(WS)においても進めている。慢性リンパ球性白血病(CLL)においてHSCが病態形成に本質的に寄与することを報告しており、本研究ではCLL症例のHSCを対象にした遺伝子解析を行った。欧米のグループとの共同研究の結果、約80%の症例でHSCを含む未分化な造血細胞に、CLL細胞と同一の体細胞変異が確認され、変異の多くはCLLにおけるrecurrentな変異であった(Damm et al., 2014)。HSCレベルでの遺伝子変異の同定は、先行研究におけるCLL症例のHSCの異常な機能的変化が生じている事実を補完する知見である。WSの原因遺伝子としてDNAヘリケース(WRN)が同定されたが、早老をきたす分子機構の解明は進んでいない。実際、Wrn欠損マウスは早老形質を示さず、ヒト早老症の動物モデルの開発が望まれている。本研究では、テロメラーゼ(Tert)とWrnの2重欠損マウスを作出し、WS症状を呈するか形態・組織学的な解析を行った。本マウスにおいて、テロメラーゼ活性の消失による生殖細胞系列でのテロメア短縮は確認されたが、2重欠損による目立った病理学的変化はないが、精巣や皮膚厚においては形態学的な変化が観察されている。
2: おおむね順調に進展している
慢性リンパ性白血病(CLL)を対象とした研究では造血幹細胞(HSC)レベルの遺伝子異常が、CLL発症に寄与していることを明らかとし、先行研究のCLLはHSC由来の腫瘍であることを補完する研究成果を上げている。また、再生不良性貧血(AA)の遺伝子解析結果は、高齢者においても観察をされるクローン性造血の生物学的意義、とりわけ、腫瘍化との関連について研究を進める上で、重要な知見、かつ有用なモデルであると考えられる。マウスモデルを用いた検証に関しては、Werner症候群のモデルマウスの作出は、当初予定していたマウスの作成ならびに表現型の解析も進んでいる。
再生不良性貧血におけるクローン造血をモデルとして、MDS、Werner症候群の網羅的な遺伝子解析を通じて、造血環境におけるステムセルエイジングに基づくクローン造血、クローン造血と造血幹細胞腫瘍発症の関連を遺伝学的に解明する。更には、マウスモデルを用いて、クローン選択におけるステムセルエイジングの影響を実験的に検証する。CLLを対象にした研究においては、日本人におけるCLL症例を用いたHSCレベルで獲得されている遺伝子変異群の同定を進める。さらに、我々はCLL細胞とHSCに共通して極めて発現が亢進している遺伝子を同定しており、その遺伝子の機能解析を進める。先行研究の結果、この遺伝子はCLLにおいては、BCRシグナルの下流に位置し、アポトーシス抵抗性に強く寄与し、HSCにおいては、細胞周期の制御、系統分化の機構に関与している知見を得ており、HSCレベルからの高い発現レベルの持続が異常なB細胞分化に寄与する仮説をたてて検証を進めている。Werner症候群のモデルマウスに関しては、哺乳類には、Wrnヘリケースが属するRecQヘリケースファミリーとして5種類の遺伝子(RecQL1, Wrn, Blm, Rts, RecQL5)が同定されている。単独のWrn欠損マウスが早老の表現型を示さず健常に生育すること、かつテロメラーゼとの2重欠損マウスも顕著な早老症の表現型を示さないことを考えると、5種類RecQヘリケース遺伝子の機能的な重複を考慮する必要があると考えられる。Wrn欠損マウスの組織で他のRecQヘリケース遺伝子の発現を調べ、代償的遺伝子発現が認められるか調べる。また、他のRecQヘリケース遺伝子との2重欠損マウスを作出し、新しい早老症発症モデルマウスの作製を目指す。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 1件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) 図書 (1件)
Nature Commun.
巻: 6 ページ: 6042
10.1038/ncomms7042.
Stem Cells
巻: 33 ページ: 976-987
10.1002/stem.1906
Sci Rep
巻: 5 ページ: 9148
10.1038/srep09148.
Leukemia
巻: 28 ページ: 1844-1850
10.1038/leu.2014.73.
Science
巻: 344 ページ: 917-920
10.1126/science.1252328.
巻: 28 ページ: 1348-1351
10.1038/leu.2014.25.
Blood Cancer Journal
巻: 4 ページ: e264
10.1038/bcj.2014.83.
Exp. Hematol
巻: 42 ページ: 163-171
10.1016/j.exphem.2013.11.005.
巻: 42 ページ: 955-965
10.1016/j.exphem.2014.07.267.
Cancer Discov
巻: 4 ページ: 1088-1101
10.1158/2159-8290.CD-14-0104.
Int J Hematol
巻: 100 ページ: 335-340
10.1007/s12185-014-1651-6.
BMC Ophthalmol
巻: 14 ページ: 31
10.1186/1471-2415-14-31.
J Am Geriatr Soc.
巻: 62 ページ: 1404-1405
doi: 10.1111/jgs.12897.
PLoS One.
巻: 15 ページ: e109288
10.1371/journal.pone.0109288.
PLoS One
巻: 9 ページ: e112900
10.1371/journal.pone.0112900.