研究領域 | ステムセルエイジングから解明する疾患原理 |
研究課題/領域番号 |
26115009
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(名古屋医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
真田 昌 独立行政法人国立病院機構(名古屋医療センター臨床研究センター), その他部局等, 高度診断研究部長 (20529044)
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研究分担者 |
横手 幸太郎 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (20312944)
宮本 敏浩 九州大学, 医学研究院, 准教授 (70343324)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 骨髄異形成症候群 / 早老症 / ゲノム変異 / 慢性リンパ性白血病 / 白血病幹細胞 / クローン造血 / マウスモデル |
研究実績の概要 |
骨髄異形成症候群(MDS)は高齢者に特徴的な造血幹細胞腫瘍であるが、健康な高齢者の一部において、加齢に伴いクローナル造血が出現し、MDSの発症母地となっている可能性が考えられている。高齢者MDSに特徴的に観察をされるRNAスプライシング変異であるSRSF2_P95H変異体のコンディショナル・ノックインマウスモデルを作成し、造血ならびにMDS病態との関連を解析した。変異体発現マウスにおいて造血幹細胞の造血能が低下し、移植モデルにおいて、MDS様の病態が再現された。また、変異体発現造血細胞において、SRSF2変異陽性MDS患者と類似したRNAスプライシングの異常が確認され、スプライシング異常を介して、MDS病態が出現していると推測された。また、高齢者に多いCLLの患者検体より腫瘍細胞、T細胞、造血幹細胞前駆細胞(HSC)をFACSにて分離・純化し、全エクソンシーケンスを行い、CLL細胞に獲得されている体細胞変異を同定した。次に同定した体細胞変異を、純化したHSCより抽出したgDNAを用いてターゲットシーケンスを行い、HSCにも一定の頻度で同一の変異を有するクローンが存在していることを確認した。さらに、CLL細胞とHSCに共通してIRAK-Mが極めて発現が亢進していることを見出した。WSの原因遺伝子はDNA ヘリケース(WRN)であるが、早老をきたす分子機構の解明は進んでいない。Wrn単独欠損マウスは早老形質を示さないため、テロメラーゼ(Tert)とWrnの2重欠損マウスを作出したが、2重欠損による病理学的な変化は認めなかった。WrnはRecQL5との機能的な重複が推測されるため、RecQL5との2重欠損マウスを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表的な早老症症候群であるWerner症候群(WS)は、様々な早老症状を呈するが、いくつかの悪性腫瘍とともに、MDSの発症頻度が高いことが知られている。WS患者におけるMDSと老化の関連を調べるため、WS患者に発症した2例のMDS/AML例の全エクソンシーケンス解析を行った。その結果、2例ともにTP53変異と染色体異常が同定されたが、高齢者MDSに特徴的なRNAスプライシング分子やエピゲノム修飾分子の変異は検出をされなかった。また、MDS非発症WS例の末梢血好中球のゲノム解析も併せて行っているが、高齢者で観察されるようなクローナル造血の所見は認められず、WSにおけるMDS発症は通常の加齢を基盤とした発症病態とは異なる可能性が示唆され、高齢者においても観察をされるクローン性造血の生物学的意義、とりわけ、老化と腫瘍化との関連について研究を進める上で、重要な知見、かつ有用なモデルであると考えられる。慢性リンパ性白血病(CLL)を対象とした研究では、CLLにおける体細胞変異の同定と、造血幹細胞前駆細胞におけるsingle cell levelでの評価系を確立し、症例解析を順調に進めている。マウスモデルを用いた検証に関しては、WSのモデルマウスの作出は、2重欠損マウスの作成ならびに表現型の解析も進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
WSを背景に若年に発症したMDSにおいては遺伝学的背景が異なる可能性が示唆されたため、WS/MDS例の保存検体を集積し、典型的なMDS例との遺伝学的相違点を明らかとする。また、比較的、若い年齢で発症したMDS例の解析結果を照らし合わせることにより、背景となる加齢性変化のもたらす影響を検証する。CLLを対象にした研究においては、日本人におけるCLL症例を用いたHSCレベルで獲得されている遺伝子変異群の同定を進める。さらに、我々はCLL細胞とHSCに共通してIRAK-Mが極めて発現が亢進していることを見出しており、その遺伝子の機能解析を進める。先行研究の結果、この遺伝子はCLLにおいては、BCRシグナルの下流に位置し、アポトーシス抵抗性に強く寄与し、HSCにおいては、細胞周期の制御、系統分化の機構に関与している知見を得ており、HSCレベルからの高い発現レベルの持続が異常なB細胞分化に寄与する仮説をたてて検証を進めている。薬理学的IRAK-M分解によるCLL治療モデルの可能性についても検証を行う。Werner症候群のモデルマウスに関しては、Wrnヘリケースが属するRecQヘリケースファミリーに含まれるRecQL5との機能的な重複が推測されるため、RecQL5の欠損マウスを作成し、ヘリケースの機能的代償性と早老症病態の出現について検証する。
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