計画研究
27年度は、前年度の研究をさらに発展させるとともに、新たな研究にも着手した。1.新生鎖フォールディングの分子機構:これまでにシャペロンによる新生鎖フォールディングの分子機構を調べてきたが、品質管理がどのように成し遂げられているのかについて分子機構はほぼ不明である。そこで新生鎖に関わるシャペロンに加えて、LonなどATP依存プロテアーゼも加えた状態にて、新生鎖フォールディングと品質管理の再構成を目指した。2.大規模な翻訳速度調節アッセイ:大腸菌で、細胞内およびPUREシステムを用いて、1000種類以上の遺伝子(ORF)を発現させ、翻訳途上産物であるペプチジルtRNA(新生鎖)の蓄積、すなわち、翻訳一時停止の状況を評価したので、その結果を生物情報学的に分析し、生物学的に重要な情報を抽出した。3.ショットガンプロテオミクスによる細胞内蛋白質フォールディングの網羅解析:本計画研究にて、質量分析を活用したショットガンプロテオミクスが可能となった。そこで、大腸菌のシャペロン欠損株や翻訳停止に影響を与える因子の変異株などを用いて、プロテオームレベルでフォールディングの状況を調べた。4.真核生物の再構築型無細胞翻訳系(真核PUREシステム):(今高)ヒト因子由来完全再構成型翻訳システムを完成させた。この翻訳システムは真核細胞のmRNAの特徴である5’キャップ構造と3’ポリA構造に翻訳活性が依存したシステムである。これにより新生鎖をよりin vivoに近い条件で解析できるようになった。(富田-竹内)酵母由来再構築型翻訳システムを改良し、翻訳伸長制御因子(翻訳伸長因子、シャペロン、アミノアシル合成酵素複合体、など)の機能解析を進めた。
1: 当初の計画以上に進展している
当初目標に掲げた研究計画について以下のように大きな進展があり、当初の予想以上の進展があったと判断した。1.新生鎖フォールディングの分子機構:新生鎖の品質管理の再構成系を確立し、数十個レベルで蛋白質の翻訳を行った際の、シャペロンによるフォールディングとプロテアーゼによる分解の競争関係を再現した。統計的な解析を行って、蛋白質のどのような性質がフォールディングするか分解されるかを決定する要因となるかを解析した。2.大規模な翻訳速度調節アッセイ:大腸菌で1000種類以上の遺伝子(ORF)の翻訳一時停止の状況を実験的に明らかとしただけでなく、生物情報学的にも解析した結果、翻訳一時停止と膜蛋白質の生合成や蛋白質のフォールディングとの相関が初めて明らかとなった。これらの結果をまとめて米国科学アカデミー紀要にて出版した(Chadani Y., et al PNAS 2016)。3.ショットガンプロテオミクスによる細胞内蛋白質フォールディングの網羅解析:大規模な翻訳一時停止アッセイのデータから、翻訳速度調節がフォールディングに影響を与えている可能性が明らかとなったので、実際にどのような蛋白質のフォールディングが翻訳の一時停止によって影響を受けるのかを質量分析によるプロテオミクスにて明らかとするための実験系の構築を行った。4.真核生物の再構築型無細胞翻訳系(真核PUREシステム):(今高)真核細胞の新生鎖を研究できるシステムを構築できたため、進捗状況は順調であるといえる。(富田)i)リボソーム調製方法の改善および翻訳条件の検討により、翻訳伸長制御(翻訳停止、フレームシフト、premature termination)を評価できる翻訳系を確立した。ii) 酵母アミノアシル合成酵素複合体を精製し、構成因子について質量分析による解析を行うとともにクライオ電顕観察による構造解析を進めた。
1.ショットガンプロテオミクスによる細胞内蛋白質フォールディングの網羅解析:27年度の研究から、質量分析によるプロテオミクス研究にて、大規模な細胞内蛋白質フォールディング研究が可能となったので、次年度以降さまざなな条件にて解析を進める。2.翻訳速度調節の分子機構:大規模な翻訳一時停止アッセイで得られたデータから、翻訳の一時停止にはいくつかクラス分けできることが判明した。そのクラス分けとしては、クラスI:in vitroでしか起こらない一時停止、クラスII:in vivoでしか起こらない一時停止、クラスIII:in vivo、in vitroどちらでも起こる一時停止、である。これらの一時停止の分子機構は不明であるので、詳細に解析していく。3.真核生物の再構築型無細胞翻訳系(真核PUREシステム):(今高)28年度で完成させたヒト因子由来完全再構成翻訳システムを用いてさまざまなヒト新生鎖(ウイルスタンパク質を含む)の成熟に必要な因子を同定する。また、領域内メンバー(河野研、稲葉研、田中研、阪口研、理研・伊藤研)との共同研究を進め、この再構成システムをそれぞれの新生鎖研究に応用していく。(富田)確立した翻訳システムを利用して、翻訳伸長制御因子の機能解析を発展させる。解析項目は以下の通り。 ・翻訳伸長因子:従来の機能の見直し(eEF3、eIF5A)、翻訳後修飾による機能制御の解析(eEF1A, eEF2) ・シャペロン:配列特異的な翻訳制御の解析(Ssb, NAC) ・アミノアシル合成酵素複合体:クライオ電顕と質量分析の組み合わせによる構造解析を行う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 12件、 招待講演 6件)
Proc Natl Acad Sci USA
巻: 113(7) ページ: E829-38
doi:10.1073/pnas.1520560113.
FEBS Lett.
巻: 590 ページ: 251-7.
doi: 10.1002/1873-468.12036.
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 469 ページ: 126-131
doi:10.1016/j.bbrc.2015.11.082
J Mol Biol.
巻: 427 ページ: 2912-8.
doi: 10.1016/j.jmb.2015.04.007.
J. Am. Chem. Soc.
巻: 137 ページ: 4658-61
doi: 10.1021/jacs.5b02144.
J. Biol. Chem.
巻: 290 ページ: 15042-15051
doi: 10.1074/jbc.M114.633636.
Front Microbiol.
巻: 6 ページ: 1113
doi: 10.3389/fmicb.2015.01113.
Sci. Rep.
巻: 5 ページ: 18025
doi:10.1038/srep18025
Biotechnol. Lett.
巻: 37 ページ: 753-760
10.1007/s10529-014-1741-9
PLoS Genet.
巻: 11(6) ページ: e1005218
doi:10.1371/journal.pgen.1005218.