研究領域 | 新生鎖の生物学 |
研究課題/領域番号 |
26116002
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田口 英樹 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (40272710)
|
研究分担者 |
今高 寛晃 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (50201942)
富田 野乃 (竹内野乃) 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (80323450)
|
研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
|
キーワード | 新生鎖 / シャペロン / フォールディング / リボソーム / 翻訳 / 再構築型無細胞翻訳系 |
研究実績の概要 |
本計画研究では、翻訳途上の新生ポリペプチド鎖(新生鎖)がどのような過程を経て立体構造を形成(フォールディング)するのか、また、新生鎖フォールディングに関わるシャペロンなどの援助因子の関与の分子機構をさまざまなアプローチを駆使することで明らかにすることを目的とする。特に、ゲノム規模、プロテオーム規模での大規模解析や翻訳系の再構成技術を中心に研究を推進する。具体的には以下のような研究を展開した。 【田口】 1.翻訳途上で起こるリボソーム開裂現象の発見とその生理学的意義の解明:昨年度までに行った大腸菌の翻訳一時停止の網羅解析を発展させて、どのようなアミノ酸配列が一時停止するかを調べたところ、配列の中には翻訳一時停止ではなく、リボソームを不安定化して翻訳を中断させるものがあることを見出した。これを内在性リボソーム不安定化(intrinsic ribosome destabilization)と名付けた。2.翻訳の一時停止とタンパク質フォールディングとの関連、特にシャペロンによる支援の網羅解析。3.ショットガンプロテオミクスによる細胞内フォールディングの網羅解析。 【今高】タンパク質のフォールデイング不全により発症する神経変性疾患(ハンチントン病)の解析に着手した。ポリグルタミン依存性タンパク質凝集を抽出液由来試験管内タンパク質合成系にて再現し、従来細胞を用いて行われていた実験系を試験管内に移すことに成功した(J. Biotech. 2016 Machida et al.)。 【富田】酵母由来再構築型翻訳システムについて引き続き改良を進めた。eEF3とStm1の機能、eIF5Aによるペプチド転移とフレームシフトの制御、eEF2のジフタミド修飾がフレームシフトに及ぼす効果、について解析を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【田口】1.本新学術領域研究のサポートでレンタルで導入した質量分析装置を使うことでショットガンプロテオミクスによる解析が飛躍的に進んだ。その一例として、新たに発見した翻訳途上で起こるリボソーム開裂現象に関して、リボソーム開裂現象によって発現制御を受ける大腸菌内の候補タンパク質を定量的なショットガンプロテオミクスを駆使することで複数見出した。さらに、その候補タンパク質について詳細に解析を進めることで、大腸菌は細胞内環境のセンシング機構の一環として、リボソーム開裂を活用していることを見出した。 2.同様にショットガンプロテオミクスを使うことで、これまでにできなかった細胞内におけるシャペロンとプロテアーゼの競争関係について大規模な解析を行うことができるようになった。これにより、細胞内のタンパク質恒常性(プロテオスタシス)をプロテオームレベルで理解できる道筋が付いた。 【今高】ヒト因子由来再構成型翻訳システムを完成させ、ヒトの新生鎖フォールデイング、特に神経性疾患に焦点を合わせた研究での進展が見られている。また、再構成型翻訳システムを領域内のメンバーに配布することにより、それぞれの研究をサポートすることができている。 【富田】今年度は特に、ペプチド転移の異常による翻訳アレストやバックグラウンドを抑えたフレームシフトを検出できるようにした。翻訳伸長因子の機能解析は計画より遅れたが、リポータータンパク質(nLuc)の合成を指標とした翻訳伸長速度やフレームシフトの評価系は大変有力であり、現在のところ優位性をもってeIF5Aや eEF2の解析を進められていると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの本新学術領域研究の支援を受けて、新生鎖研究を拡げることができている。特に、これまでに知られていなかった翻訳レベルでの遺伝情報発現機構の発見やショットガンプロテオミクスによる細胞内タンパク質恒常性の研究は今後も重点的に進める。また、再構築型翻訳システムによる新生鎖研究、領域内外との共同研究を積極的に推進する。 【田口】1.定量的ショットガンプロテオミクスを用いて、大腸菌における翻訳の一時停止とタンパク質フォールディングやシャペロンとの相互作用の相関を大規模に調査し、生物情報学的に解析する。 2.新たに明らかとなった新規の翻訳速度調節現象(リボソーム開裂現象)の分子機構や生理学的意義をさらに明らかにする。 3.大腸菌で実施した大規模な翻訳一時停止解析を出芽酵母など真核細胞へ拡張する。また、リボソーム開裂現象についても出芽酵母やヒト細胞にて起こっているのか解析を進める。 4.生細胞内での翻訳の可視化技術を用いて、細胞内での翻訳時フォールディングを可視化する。(国際支援班によるサポートを受けた国際共同研究) 【今高】ヒト因子由来再構成型翻訳システムをリポソームに包含することにより再構成型細胞の構築に着手する。これによりin vitro での新生鎖研究がよりin vivo に近い環境で行えるようになり、さらに当該研究の幅が広がることが期待できる。また、これまでと同様に領域内外との共同研究を推進する。 【富田】出芽酵母由来の再構築型無細胞翻訳システムを用いて、翻訳伸長因子の機能解析を完了させるとともに、シャペロンやリボソーマルタンパク質による翻訳伸長の制御について解析を開始する。
|