研究領域 | 新生鎖の生物学 |
研究課題/領域番号 |
26116003
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
稲田 利文 東北大学, 薬学研究科, 教授 (40242812)
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研究分担者 |
長尾 翌手可 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (30588017)
岩川 弘宙 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (60710415)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 新生鎖 / 品質管理 / タンパク質分解 / ユビキチン化 / プロテアソーム / mRNA分解 |
研究実績の概要 |
翻訳途上の新生ポリペプチド鎖(新生鎖)は、細胞全体の生命現象の制御と調節に重要な役割を果たす。研究代表者は、mRNA品質管理品質管理機構を解析し、異常なmRNA由来の新生ポリペプチド鎖の新規分解機構(RQC: Ribosome-associated Quality Control)とmRNA切断機構である(No-Go Decay: NGD)における新生鎖の機能を明らかにした。本研究課題では、遺伝子発現の正確性を保証するmRNAとタンパク質の品質管理機構における、新生鎖の新規機能と新生鎖の運命決定機構の解明をめざし、以下の項目を解析する。①特異的配列を持つ新生鎖による翻訳アレストの分子機構、②翻訳アレストによる新生鎖分解とmRNA切断におけるE3ユビキチンライゲースHel2の機能解析。平成28年度には、ミュンヘン大学のRoland Beckmann博士との共同研究によりE3ユビキチンライゲースHel2と80Sリボソームとの複合体の構造をクライオ電顕により解析し、翻訳伸長の極めて特徴的な中間体がHel2に認識される可能性が強く示唆された。また、RQCに必須な新規因子RQT複合体を同定し、RQT複合体に含まれるユビキチン結合因子によるユビキチン認識がRQCに必須であることを見出した。研究分担者の長尾は、タンパク質N末端付近の翻訳精度維持機構を見出し、さらにdrop-offに影響するrRNA変異体ではその精度が低下することも明らかにした。研究分担者の岩川は、RISCによる切断または翻訳アレストを受けたmRNA上のリボソーム、および新生鎖のその後の運命を生化学的に解析する基盤となる動植物のセルフリー系を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、異常なmRNA由来の新生ポリペプチド鎖の新規分解機構とmRNA切断における新生鎖の機能を明らかにした。連続した塩基性配列を持った新生鎖が翻訳伸長反応を停止(翻訳アレスト)させる結果、mRNA切断(NGD)と新生鎖のユビキチン化とプロテアソームによる迅速な分解(RQC)が起こる。本研究課題では、翻訳異常を感知し異常mRNAとタンパク質の分解を引き起こす品質管理であるRQCとNGDの分子機構の解明し、以下の知見を得た。①特異的配列を持つ新生鎖による翻訳アレスト認識機構におけるE3ユビキチンライゲースHel2によるリボソームタンパク質のユビキチン化が必須であることを見出した。②停滞したリボソームの新規解離因子RQT複合体を同定した。③翻訳アレストに起因するmRNAと新生鎖の品質管理機構として、機能欠損リボソームの品質管理機構であるNRDについて解析し、リボソームタンパク質のユビキチン化とRQT複合体の機能を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
翻訳異常を感知し異常mRNAとタンパク質の分解を引き起こす品質管理の分子機構の解明を目標に、平成29年度には以下の解析を行う。上記4項目についての研究実施計画は以下である。①特異的配列を持つ新生鎖による翻訳アレストを認識機構におけるHel2の機能解明:Hel2とリボソームの複合体構造をクライオ電顕によって解析する。ミュンヘン大のBeckmann研との共同研究によって、部分的なHel2を含むリボソーム複合体の構造が得られている。本年度は精製とクロスリンク等の条件検討を進めて、Hel2の全体を含むリボソーム複合体の構造決定を目指す。②停滞したリボソームの解離因子の同定:RQCに必須な新規因子Rqt2/3/4を同定できたため、翻訳伸長停滞を認識機能について解析する。リボソームの解離に直接関与する可能性を検証する。③翻訳アレストに起因するmRNAと新生鎖の品質管理機構の普遍性:RISC(miRNA-Induced Silencing Complex)による物理的な翻訳伸長阻害によるRQCとNGDについて解析し、普遍性を明らかにする(研究分担者岩川博士担当)。④大腸菌を用いて細胞内のpeptidyl-tRNAを網羅的に解析する方法を確立したため、peptidyl-tRNAの単離解析を行い、デコーディング面からdrop offのメカニズム解明を目指す(研究分担者長尾博士担当)。⑤⑥RQC/NGD因子の発現低下による翻訳異常を示すmRNAの同定を進め、RQC/NGD因子の発現低下による行動異常の原因となる翻訳異常の実体を解明する。
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