計画研究
平成27年度は、平成26年度に引き続きジスルフィド結合形成モニタリング系の開発をすすめた。様々なステップにおける条件検討の結果、小胞体内に送り込まれてくるLDL受容体(LDLR)の新生鎖にジスルフィド結合が導入される過程を観察するため系の開発に成功した。その結果、遅くともLDLRの新生鎖が約70kDaの大きさに伸長した時点でジスルフィド結合が導入されることが判明した。一方、上記モニタリング系では近接したシステイン間に形成されたジスルフィド結合の検出が容易ではないことも判明した。そこで、新生鎖中の近接したシステイン間に形成されたジスルフィド結合でも検出可能なシステムを新たに着想し、構築した。更に、ジスルフィド結合形成交換反応の際に、基質であるLDLRとPDIファミリータンパク質の間に形成される複合体を精製し、その質量分析からLDLRと相互作用するPDIファミリータンパク質を網羅的に同定することにも成功した。さらに、ヒト細胞の小胞体における主要なジスルフィド結合形成酵素Ero1の活性制御機構について構造生化学的研究を進めた。具体的には、X線小角散乱法によるEro1の溶液構造を決定すると同時、Ero1のPDI酸化活性がCys94-Cys131間のジスルフィド結合の還元だけでなく、Cys208-Cys241間のジスルフィド結合の還元によっても亢進されることを発見した。さらに、これらジスルフィド結合を還元するのは基質であるPDIそのものであることも突き止め、小胞体内の酸化還元環境に応じてEro1の酸化活性が厳密に制御されることとその分子機構の詳細を解明した。さらに新生鎖に対する各PDI family酵素のジスルフィド結合形成機構を試験管中で定量的に解析するため、ヒト無細胞合成系を用いた新生鎖の合成と、リボソーム―新生鎖複合体の調整を進め、本実験系を確立することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、小胞体内に送り込まれてくるLDLRの新生鎖にジスルフィド結合が導入される過程を観察するためのジスルフィド結合形成モニタリング系の開発に成功した。その結果、遅くともLDLRの新生鎖が約70kDaの大きさに伸長した時点でジスルフィド結合が導入されることが判明した。また、上記モニタリング系では近接したシステイン間に形成されたジスルフィド結合の検出が容易ではないことも判明した。この問題を解決するために、平成28年度への繰越金が発生したが、マレイミド基と6塩基からなる一本鎖DNA間に光で切断可能な反応基を導入したシステインの修飾試薬を開発した。この分子を利用することによって、新生鎖中に形成されたジスルフィド結合を鋭敏に検出できる新たな系の作製に成功した。これは技術的に大きな進展である。更に、質量分析によってLDLRと相互作用するPDIファミリータンパク質を網羅的に同定することにも成功した。小胞体内のジスルフィド結合形成における最重要酵素であるEto1の溶液構造と活性制御機構の解明において大きな進展がみられ、近日中に論文投稿する準備が整った。さらに本研究課題の重要テーマの一つである、PDI familyによる新生鎖のジスルフィド結合形成機構の解明に向け、無細胞合成系を用いたリボソーム―新生鎖複合体の調整法の開発において大きな進展がみられ、平成28年度以降の実験を加速的に遂行する下地が出来上がった。
①リボソーム上で伸長しつつ小胞体内に送り込まれてきたLDLRの新生鎖にジスルフィド結合が形成される仕組みの解析平成27年度、申請者らはジスルフィド結合形成モニタリング系の開発をすすめ、様々な工夫の結果、当初、予定していた系の構築に成功し、LDLRの新生鎖がリボソーム上で遅くとも約70kDaの大きさまで伸長した時にジスルフィド結合が導入されることを発見した。更に、LDLRと相互作用するPDIファミリータンパク質を網羅的に同定することにも成功した。平成28年度は、ノックダウン実験によって各PDIファミリータンパク質が、LDLRの酸化的な立体構造形成反応に果たす役割を解析する。また、ジスルフィド結合はLDLRのN末側のRドメインと中央部のEGFドメインに存在する。各ドメイン欠失体と上記のモニタリング系を組み合わせることによって、細胞内で新生鎖上にジスルフィド結合が導入される仕組みの詳細の解明を目指す。②新生鎖のジスルフィド結合形成を試験管内で解析するための系の構築とそれを用いたジスルフィド結合形成メカニズムの解析リボソーム―新生鎖複合体の調整法を確立できたため、次のステップはN末端から種々の長さに伸長した新生鎖の調整と各PDI familyを添加した際のジスルフィド結合形成モニタリングシステムの開発である。種々の長さの新生鎖調整のため、翻訳アレスト配列を幾つか特定の位置に挿入し、これにより意図した長さで翻訳が止まった新生鎖の調整に予備的に成功している。また、システインをマレイミドPEG修飾後に電気泳動することで、新生鎖のシステインの酸化還元状態が検出可能と思われる。以上の実験系を用い、PDI family酵素が新生鎖をどのように認識し、どのような作用機序のもとどのような効率でジスルフィド結合の導入・組換えを行うのか、定量的かつ分子構造レベルで詳細に解析する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 9件、 招待講演 6件) 備考 (3件)
Biochemical Journal
巻: 473 ページ: 851-858
10.1042/BJ20151223
Redox Biology
巻: 7 ページ: 14-20
10.1016/j.redox.2015.11.004.
J. Mol. Biol.
巻: 427 ページ: 2663-2678
10.1016/j.jmb.2015.06.016
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
巻: 112 ページ: 7701-7706
10.1073/pnas.1503102112
Free Rad. Biol. Med.
巻: 83 ページ: 361-372
10.1016/j.freeradbiomed.2015.02.011
Free Rad. Biol. Med
巻: 83 ページ: 314-322
doi: 10.1016/j.freeradbiomed.2015.02.010
日本生物物理学会会報誌
巻: 55 ページ: 34-36
http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/inaba/
http://www.lifesci.tohoku.ac.jp/teacher/t_inaba/
http://www.lifesci.tohoku.ac.jp/teacher/h_kadokura/