計画研究
C7抗体は立体構造形成特異的な抗体であり、LDL受容体(LDLR)のN末端に存在するR1ドメインに、天然型のジスルフィド結合が形成されるとこれを認識する。平成29年度には、C7抗体とジスルフィド結合形成モニタリング系を利用した解析を推し進め、新生鎖が80kDaの大きさに伸長すると、R1ドメイン中のジスルフィド結合が非天然型のものから天然型のものに組み換えられることを見出した。更に、この反応にはR1ドメインの下流に存在するβプロペラ領域が必要であることも分かった。よって、R1ドメインの立体構造形成反応は、下流に存在するドメインの翻訳合成で制御されていることが強く示唆された。更に、河野班との共同研究により、小胞体ストレスセンサーIRE1αが、膵臓ランゲルハンス島β細胞中でPDIファミリータンパク質の発現維持に働いており、その機能はインスリンの正しい折り畳みに必要であることを見出して報告した。また、無細胞合成系を用いて作製したリボソーム―新生鎖複合体に対するPDIファミリー酵素を介したジスルフィド結合導入機構の解析についても、研究が大きく進んだ。具体的には、PDIとERp46共に新生鎖に天然型のジスルフィド結合を導入することができるが、PDIは効率的なジスルフィド結合導入のために、より長い新生鎖を要することを見出した。実際、高速原子間力顕微鏡によりPDIまたはERp46と新生鎖との結合様式を一分子レベルで観察したところ、PDIは新生鎖を取り囲むかたちで二量体を形成するのに対し、ERp46は単なる拡散過程で新生鎖と一過的に結合することが明らかとなった。すなわち、PDIとERp46では新生鎖に対する認識機構が大きく異なり、PDIは二量体を形成することで、よりタイトに新生鎖に結合し、天然型のジスルフィド結合を導入することが示された。
2: おおむね順調に進展している
タンパク質のジスルフィド結合形成は、新生鎖の合成、局在化、立体構造形成等とカップルし進行すると予想されるが、その実態は不明である。この反応を理解するために、申請者らは小胞体内に輸送された新生鎖にジスルフィド結合が形成される様子を観察するための系を開発した。本年度は、更に、立体構造形成特異的な抗体を利用することで、新生鎖に正しい組み合わせのジスルフィド結合が形成されるタイミングを調べることに初めて成功した。その結果、新生鎖の翻訳合成の特定のタイミングでジスルフィド結合が、非天然型のものから天然型のものへと組み換えられること等が判明した。これは、小胞体内におけるタンパク質の折り畳み機構を考える上で重要な発見である。翻訳合成の特定のタイミングでジスルフィド結合の組み換え反応が誘起される現象は予想外で極めて興味深いが、その理由は不明であり、平成30年度はその仕組みを解明する。
以下の実験によって、リボソーム上における新生鎖の合成とジスルフィド結合形成反応がどのように共役しているのかを解明する。①LDLRの新生鎖が特定の大きさにまで伸長するとR1ドメインのジスルフィド結合が非天然型のものから天然型のものへと組み換えられる。その分子機構を理解するために、本年度は、N末端から長さの異なるLDLRの新生ポリペプチド鎖を作成し利用することによって、新生鎖がどこまで伸長した時に、この反応が誘起されるのかを明らかにする。②還元条件下泳動したLDLRの新生鎖のバンドの濃さの変化から、LDLRの翻訳伸長速度は80kDa付近で著しく低下すると予想される。平成30年度は、リボソームプロファイリング法でその位置を正確に調べ、その情報をもとに翻訳速度が低下しない変異体を作成し解析することにより、翻訳伸長速度の制御がLDLRの折りたたみ経路上どのような意義を持つのかを解明する。③リボソームー新生鎖複合体に対するPDIファミリー酵素の作用機序を解明するため、高速AFMによる一分子観察を統計的解析が可能となるまで繰り返し行う。さらに、長さの異なる新生鎖のバリエーションを増やし、PDIとERp46による新生差認識機構とジスルフィド結合を導入効率の関係について、考察を深める。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (3件)
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