研究領域 | 新生鎖の生物学 |
研究課題/領域番号 |
26116008
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
千葉 志信 京都産業大学, 総合生命科学部, 准教授 (20523517)
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研究分担者 |
伊藤 維昭 京都産業大学, 研究機構, シニアリサーチフェロー (90027334)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 新生鎖 / 翻訳アレスト |
研究実績の概要 |
本年から、新学術領域研究の補助を受け、「はたらく翻訳途上鎖の生理機能と分子機構」の解明を目指し、研究をスタートさせた。 全てのタンパク質はリボソームで合成される。合成途上鎖(新生鎖)は、タンパク質の合成中間体であり、過渡的であり動的である。また、機能を持たない未成熟な存在であると見なされ、機能に着目した研究の対象外であった。我々は、翻訳の途上で自身の合成を一時停止(アレスト)させることで、新生鎖の状態で機能するタンパク質を過去に見出した。例えば、大腸菌SecMは、タンパク質の分泌装置をモニタリングして分泌モーターSecAの発現を調節する因子であり、枯草菌MifMは、タンパク質の膜組込のモニタリングを行う。本研究では、これらのアレスト因子のアレスト機構を明らかにすべく、その根幹である新生鎖-リボソーム相互作用を明らかにしようとしている。この相互作用はユニバーサルなものではなく、種によって固有であることが以前示唆された。遺伝学を駆使し、リボソームトンネル内のL4やL22が、種特異的な新生鎖-リボソーム相互作用に重要であることを見出した。特に、L22の90番目の残基の種特異性に対する重要性が明らかになった。共同研究により、MifM-リボソーム複合体の構造も解かれ、新生鎖-リボソーム相互作用の詳細な理解が進んだ。翻訳アレスト解除機構に関しては、SecMの翻訳アレストの解除に重要な領域として、分泌シグナル以外の領域が新たに同定された。その領域に相互作用する可能性のある因子の同定を、架橋実験を用いて進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新生鎖が翻訳アレストを引き起こす機構を解明する上で、新生鎖とリボソームのトンネル成分との間で起こる相互作用を詳細に解明することが不可欠である。ドイツ・ミュンヘン大学との共同研究によるクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析が大きな進展を見せた。構造解析の結果、MifMとリボソームとの相互作用部位と思われる領域が複数同定された。この結果は、これまで我々が行い、また、今後も継続する遺伝学的な解析と照らし合わせることで、新生鎖-リボソーム相互作用についての有用な情報となり得る。また、これまで、枯草菌リボソームRNAの変異解析を行う実験系の確立がうまくいっていなかったが、今年度に入り、プラスミドの選択などを工夫することで、リボソームDNA上の変異が表現型に反映される系ができあがった。この系の確率は翻訳アレスト機構の解明をする上で重要な実験系であったため、その系が確立したことは重要な進展であると判断出来る。
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今後の研究の推進方策 |
MifMやSecMの翻訳アレスト機構の解明に向け、構造生物学と遺伝学の両方のアプローチを組み合わせ、相互作用部位の同定を行い、その機能的重要性を検討する。MifMは、YidCによって膜組込される事で翻訳アレストが解除される。翻訳アレストの解除に必要な、MifMとYidCの相互作用を検討するため、in vitroでのタンパク質膜組込系を構築する。以前、in vitroで、MifMの翻訳アレストを再構成することが出来たため、その系を利用しながら再構成系の構築を行う。MifMの翻訳アレストモチーフを他の因子のC末端に融合させたようなキメラ体のうち、N末端側に結合したタンパク質の動的挙動がC末端での翻訳アレストを解除出来る様なものをスクリーニングする。このスクリーニングを通じて、翻訳アレストの解除に必要な動的挙動を明らかにするとともに、タンパク質の局在化以外の生物学的プロセスをモニタリングする新規センサータンパク質の構築を目指す。
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