計画研究
本研究課題では、「はたらく新生鎖の生理機能と分子機構」の解明を目指している。以前、我々は、翻訳の途上でリボソームのトンネル内成分と相互作用することで、自身の翻訳伸長を一時停止(アレスト)させる因子を見出した。この翻訳アレストは、タンパク質の局在化装置の監視やその量的・質的制御に重要な役割を果たしていることがこれまでの我々の研究から明らかにされてきたが、その全貌は未だ未解明のままである。また、一般的なプロテオームメンバーが、翻訳途上鎖の状態で自律性を発揮し、自身の翻訳伸長速度を調節することで、その成熟や局在化に影響を与えるとの新たなパラダイムが生まれつつある。このような背景を受け、2015年度は、まず、枯草菌MifMとリボソームとの相互作用の全貌解明に向け、ドイツ・ミュンヘン大学のDaniel Wilson博士らとの共同研究で、MifMとリボソーム複合体の構造解析を行った。また、これまで解析がなされてこなかった、リボソームトンネル外でのリボソーム-MifM相互作用の解析を行った。その結果、MifMとリボソームのトンネル外領域成分との相互作用を含む多数の相互作用がMifMの翻訳アレストを安定化させていることを示唆する結果を得た。次に、東工大田口英樹教授らとの共同研究で、大腸菌プロテオームメンバーの網羅的な翻訳伸長プロファイルの解析を行ったところ、ほとんどのタンパク質は、合成途上の段階で翻訳伸長がポーズすることが明らかとなり、実際の翻訳において、翻訳伸長が一定速度で進行することはむしろまれであることが明らかとなった。京大森博幸准教授らとの共同研究においては、森らが海洋性ビブリオ菌で見出した新規翻訳アレスト因子VemPの分子機構を生化学的に解析し、森らによる結果と併せて、VemPが、リボソームのペプチジル転移反応を阻害することで翻訳アレストを引き起こしていることを示した。
1: 当初の計画以上に進展している
2014年度から2015年度にかけて、MifM-リボソーム複合体の構造解析が大きな進展を見せ、MifMの翻訳アレストの分子機構の詳細が明らかになりつつある。この共同研究により得られた知見の幾つかは、申請当初予想していなかった重要なものであり、共同研究を介した構造解析以外の手法からたどり着くのはおそらく困難な知見であったため、当初の計画以上の進展といえる。また、2015年度は、東工大田口英樹教授らとの共同研究や、京大森博幸准教授らとの共同研究が大きな進展を見せた。いずれも、新学術領域の班員間での共同研究であり、各研究室がおのおの得意な技術を提供し合った結果、申請当初の予想以上に研究がスムーズに進行し、大腸菌プロテオームメンバーのほとんどが翻訳伸長時にポーズを経験するというインパクトのある知見や、新規アレスト因子の発見とその分子機構の理解の進展という、それぞれに重要な結果が得られた。新学術領域の班員同士の共同研究が生み出した成果という点でも意義深い。
MifMの翻訳アレストに重要なMifM-リボソーム間相互作用のうち、リボソームトンネルの外部でも、翻訳アレストを安定化させる相互作用が存在することが、幾つかの実験結果により示唆されつつある。そのことを受け、今後、MifMとリボソームのトンネル外領域成分との相互作用の重要性の検討を、遺伝学ならびに架橋実験などの生化学的手法を用いて行う。翻訳アレストの解除には、物理的な「引っ張り力」が重要であることが明らかにされつつある。この性質を利用し、細胞内で「引っ張り力」を生み出す因子や事象を感知するセンサーを構築する。翻訳アレストの普遍性と多様性を理解する目的で、これまで全く報告例のない、古細菌の翻訳アレスト因子の探索を行う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~k4563/index-j.html