研究領域 | 新生鎖の生物学 |
研究課題/領域番号 |
26116008
|
研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
千葉 志信 京都産業大学, 総合生命科学部, 准教授 (20523517)
|
研究分担者 |
伊藤 維昭 京都産業大学, 研究機構, シニアリサーチフェロー (90027334)
|
研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
|
キーワード | 翻訳アレスト / 蛋白質局在化 / リボソーム |
研究実績の概要 |
我々は、翻訳の途上で生理機能を発揮する新生鎖である枯草菌MifMや大腸菌SecMを発見し、以来、新生鎖の生理機能と分子機構の解明を目指して研究を行ってきた。枯草菌MifMは、そのC末端付近の特定のアミノ酸配列(アレストモチーフ)を介して自身を合成するリボソームに働きかけ、そのPTC付近やペプチド鎖排出トンネルにあるリボソーム成分と相互作用することで自身の翻訳伸長をアレストする。また、N末端にある膜挿入シグナルがYidC依存的に膜挿入されると、おそらくそれに伴う「引っ張り力」によって、翻訳アレストが解除される。前年度に行った研究から、MifMが、これまで見出されていなかった新たな相互作用を介して翻訳アレストを安定化させていることが示唆された。この相互作用は、アレストモチーフよりもさらにN末端側にある領域とリボソームの表面との相互作用を含むものであることが示唆された。網羅的な変異解析から、この相互作用が比較的弱い相互作用の集合によって補完されているものであることも示唆されつつある。 SecMやMifMのアレスト解除はそれぞれの持つN末端領域が細胞装置に引っ張られることで引き起こされることが示唆されている。N末端領域の改変により、アレストモチーフを力学センサーとして利用することが可能であると考え、その領域のシステマティックな改変を行っている。トランスポゾンを利用した方法が有効であるとの予備的結果が得られつつある。 SecMのアレストモチーフとN末端シグナル配列との間に、アレスト解除に必要なエレメントが存在することを以前見出した。その領域と相互作用する因子をin vivoならびにin vitroの架橋実験から探索しており、現在、ターゲット候補が絞られてきた状況である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MifMの翻訳アレストに必要な領域の全体像を解明する試みから、MifMの翻訳アレストの安定化に寄与する新たな相互作用の存在が明らかになりつつある。網羅的な変異解析から、この相互作用の持つ性質も分かりつつあり、リボソームと新生鎖の相互作用が広範囲にわたるものであることが見えてきた。これまでほとんど注目されてこなかった、翻訳伸長速度の制御における新生鎖とリボソーム表面成分との相互作用がこれらの解析から浮かび上がってきたことは意義深い。 SecMやMifMの翻訳アレストモチーフを利用し細胞内でおこる様々な生命現象の動態を解析できるようになれば、その波及効果は大きいものと期待されるが、前年度の結果から、そのようなツールを効率よく作製するのに適した系が確立した可能性を示唆する予備的結果が得られつつある。 SecMの翻訳アレスト解除に必要なエレメントと相互作用する因子の同定を行っているが、前年度にin vitroで行った架橋実験から、少しずつ相互作用のパートナー候補が絞られつつある状況である。 以上の進捗状況を総合的に鑑みると、プロジェクトはおおむね順調に進展しているものと判断出来る。
|
今後の研究の推進方策 |
MifMとリボソームとの相互作用の解析については、幾つかの仮説に基づいた変異解析を行い、その相互作用の性質を明らかにする。リボソーム側の変異解析や架橋実験による相互作用部位の同定についても引き続き進める。これらの解析から、広範囲にわたる新生鎖-リボソーム間相互作用の働きや、それらの相互作用が翻訳伸長速度に与える影響を理解する。 前述のように、SecMやMifMの翻訳アレストモチーフを改変利用し細胞内でおこる様々な生命現象の動態を解析できるようになれば、その波及効果は大きいものと期待される。さらに、そのような研究を通じて、翻訳アレスト解除の機構について手がかりが得られることも考えられる。そこで、SecMやMifMのアレストモチーフのN末端に細胞中の他のタンパク質を融合したようなキメラを作製し、さらに、そのようなキメラタンパク質のなかで、翻訳アレストを解除するようなものを網羅的に探索する。 SecM分子中に存在するアレスト解除促進エレメントと相互作用する因子の探索を引き続き行う。in vitroでの架橋実験を押し進めることで、相互作用のパートナーの同定に繋げる。
|