枯草菌翻訳アレスト因子MifMは自身を合成するリボソームと相互作用することで翻訳アレストをひき起こす。この相互作用はアレストモチーフのN末端側からの引っ張り力によって解除される。この「引っ張り力感受性」を利用し、細胞内において新生鎖が翻訳途上で受ける引っ張り力を網羅的に調査する試みを進めている。MifMの翻訳アレストモチーフと枯草菌タンパク質の様々な領域を融合したライブラリを作成し、その中から翻訳アレストを解除するとおもわれるものを、lacZレポーターを用いた系で多数単離した。これらについて、アレスト解除が実際に起こっているかどうかの確認実験と、それが確認できたものの中から幾つかについて、翻訳アレスト解除のトリガーとなる動的挙動の同定を行った。中には、翻訳の途上で他の細胞質タンパク質と複合体形成を行う際に、アレスト解除をひき起こす引っ張り力を生み出していると思われるものも複数得られたことが示唆されつつある。 バイオインフォマティクスを駆使した網羅的なゲノム解析から、新規翻訳アレスト因子の候補として三種類の因子を同定した。大腸菌、枯草菌のin vivoならびにin vitro翻訳系を用いた解析から、これらが、いずれも特定の生物種において翻訳アレストをひき起こすことが示唆された。これら新規翻訳アレスト因子のひき起こすアレストの分子機構について明らかにするため、各種変異解析を行った。その結果、翻訳アレストに重要と思われるアミノ酸残基が徐々に明らかになってきた。興味深いことに、これら三種類のアレスト因子のアレストに重要な役割を果たすと思われるアミノ酸残基の配列には一部類似性も見られた。今後、さらなる変異解析から、翻訳アレスト配列の収斂進化の可能性を検討する必要がある。
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