計画研究
本研究では認知症にかかわる重要な脳タンパク質が、健常高齢者や認知症・神経変性疾患のat risk例において、どのように老化変性して認知症に至るのかを病変の可視化に基づいて示し、ヒトタンパク質老化の過程を解析することを目的としている。さらに、タンパク質老化に打ち勝つ人々の臨床画像特徴解明に務め、経時的臨床像、各種バイオリソースとの関係も検討する。平成27年度は、多数の健常高齢者によるコホート作成に引き続き務め、高次脳機能検査、コネクトーム解析(安静時脳機能MRI、安静時MEG、64軸拡散テンソル画像等)、脳容積画像、採血を脳とこころの研究センターにて行った。申込み者は597日で724名、撮像は1回目455名、2回目185名を既に終え、DNAも95%以上で確保した。2回目も85%を超えるボランティアの協力が得られており、コホート作成は順調に推移している。350名の時点における解析では、200名の時点で見出した加齢に伴って脳容積画像で萎縮する領域、拡散MRIで障害される白質領域を、確認するとともに、新しい安静時機能的MRIの解析方法を用い、加齢に伴って非常にダイナミックな領野間結合の減弱と増強を生ずることを見出した。また、脳タンパク質の可視化を目指す研究においては、谷内グループと協力の下、病的タウタンパク質(THK-5351)とβアミロイドの高感度タンパク質PET研究を進め、健常者においては、タウタンパク質が従来考えられていたよりも広範に蓄積され、早期アルツハイマー病症例と同程度であっても高次脳機能がよく保たれている例の存在することを見出した。今後、このような症例を対象として、脳タンパク質蓄積と神経回路障害との関係を明らかにしていく。
2: おおむね順調に進展している
健常高齢者と、軽度認知障害(MCI)を対象として、神経回路がどのように老化変性し、神経変性から認知症に至るのかを解析できる健常高齢者および患者前向きコホートを構築することを目的としているが、コホートは順調に構築が進んでおり、全例で高次脳機能検査、頭部MRI・MEGによるコネクトーム解析、脳容積画像を施行するとともに、95%において採血を実施し、DNAおよび血清を保存することが出来た。また、コネクトームの経時的変化所見を明らかにすることも重要な目的であるが、85%を超える参加者の協力を得て2回目の撮像が順調に推移していることは、特筆すべき点である。その中から、健常者から認知症発症に至った例の観察も進んでいる。健常加齢における安静時機能的MRIの解析では、加齢に伴い、辺縁系を中心とした脳萎縮を認め、側脳室前角から側脳室周囲を中心としたTBSS解析における解剖学的白質線維の障害が出現する一方で、安静時脳機能MRIを用いた独立成分分析ではデフォルトモードネットワーク、セイリアンスネットワーク、エグゼクティヴコントロールネットワークをはじめとする主要安静時ネットワークは良く保たれていた。一方、499箇所設定した関心領域同士における安静時ネットワーク結合は、加齢に伴い減少している領域よりも増加している領域を特に後方系において広範に認め、脳の加齢に伴う機能低下の代償的な所見を観察している可能性があると考えられた。タウPETでは、健常者でも側頭葉内側面を超えて、一部楔前部に至るような、従来の常識よりも広範囲なタウの拡がりを示している症例があることが示された。一方、軽度認知機能障害、アルツハイマー病において健常者よりもタウタンパク質の蓄積が多い解剖学的部位が明らかになりつつある。
認知症にかかわる重要なタンパク質が、健常高齢者や認知症・神経変性疾患のat risk例において、どのような分布の違いを示し、さらに老化変性して認知症に至るのかを神経回路や高次脳機能との関係を踏まえつつ病変の可視化に基づいて示すことが出来るよう研究を進める。ヒトタンパク質老化の過程の解析を進め、タンパク質老化に打ち勝つ人々の臨床画像特徴解明を進めるためには、大規模健常高齢者を対象として、高次脳機能検査、MRI・MEGコネクトームデータ(安静時脳機能MRI・MEG、64軸拡散テンソル画像等)、DNA、血清を経時的に収集していく必要があるため、引き続き1000名を目標にデータの収集に努めていく。また、高齢者、at rsik症例、早期認知症症例を対象に、高感度タンパク質PET撮像も積極的進め、タンパク質集積と神経回路(解剖学的、機能的)の関係を明らかにする。特に、病的タンパク質蓄積にもかかわらず、認知機能の保持されている例における神経回路の状態と、同様の蓄積がありながら認知症を呈している症例の神経回路の状態を比較することは、タンパク質老化に打ち勝つ病態解明に寄与すると期待される。さらに縦断的なコネクトーム画像を行い、経時的な、神経回路、高次脳機能などの変化を多面的に解析し、縦断的なコネクトーム画像とPET所見の観察から、コネクトームの変化、各タンパク質の経時的脳内分布および蓄積量の変化、タンパク質同士の関係、タンパク質と脳機能、脳萎縮、臨床的重症度との関連性を検討するとともに、先制治療の介入時期などを解明していく。また、次世代シーケンサーを用いて既知の認知症、神経変性疾患関連遺伝子の網羅的シーケンスを行い、遺伝子異常・多型と臨床像、画像との関連を解析出来るよう、また、大規模プロテオーム解析につながるよう、遺伝子、血漿データの収集に努める。
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