計画研究
我々はタウ蛋白蓄積と神経変性、脳機能障害との関連性を明らかにするため、独自に開発したタウPET プローブ[18F]THK-5351を用いて健常高齢者や各種神経変性疾患の患者を対象とした臨床研究を実施した。ADではタウ病変好発部位に一致した[18F]THK-5351の集積を認め、軽度認知障害(MCI)から認知症へと進行するにつれて、[18F]THK-5351の集積量が上昇し、側頭葉下部から頭頂葉や前頭葉などの他の皮質へと集積範囲が拡大する傾向を認めた。ADの非典型例とされる後部皮質萎縮症の症例では、外側後頭―頭頂領域におけるTHK-5351集積が顕著であり、記憶障害を主体とする典型的AD症例とは集積パターンが異なっていた。大脳皮質におけるTHK-5351の集積分布は脳萎縮の分布ともよく一致し、特に脳萎縮に左右差のみられる症例では萎縮の優位側でTHK-5351の集積を顕著に認めた。またアミロイドPET陰性の認知症患者においても、側頭葉の萎縮部位に一致した[18F]THK-5351集積を確認した。進行性核上性麻痺、皮質基底核症候群(CBS)における病変検出性能についても検討を行ったところ、タウ病変好発部位で顕著な[18F]THK-5351集積を認めた。特にCBS症例ではトレーサー集積の左右差が目立ち、淡蒼球症状優位側の対側の中心前回付近で高度な[18F]THK-5351集積を観察したことから、トレーサー集積によって反映されるタウ病変の局在が臨床症候に強い影響をもたらすことが示唆された。上記臨床研究と並行して、αシヌクレイン蛋白を検出するための新しいPETプローブ候補化合物の探索も昨年度に引き続き実施し、パーキンソン病患者脳切片におけるレビー小体を明瞭に染色する低分子化合物を見出した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、前年度に引き続き申請者が独自に開発した改良型タウPETプローブ[18F]THK-5351を用いて健常高齢者や各種神経変性疾患の患者を対象とした臨床研究を実施した。当初の計画通り、本年度はアルツハイマー患者だけでなく非アルツハイマー病である進行性核上性麻痺、皮質基底核症候群も対象として各種PET検査を施行し、ADとは異なる特徴的な集積が認められ、期待通りの結果が得られている。α-シヌクレイン、TDP-43を標的としたPETプローブの開発は、スクリーニングの評価系の構築は完了し、候補化合物の探索が進行中であり、病変に対する結合性を有し、脳血液脳関門透過性を有する候補化合物が見出されており、当初の計画通りプローブ開発作業が進行中である。
来年度以降も、[18F]THK-5351と[11C]PiBを用いてタウ蛋白質、βアミロイドの脳内蓄積量の評価を進める。これまでに検査を実施済の被験者において、フォローアップ検査を実施し、タウ蛋白質、βアミロイドの経時変化および相互作用を調べる予定である。また、αシヌクレイン、TDP-43に対して結合親和性を有するPETプローブ化合物について標識化合物を合成し、オートラジオグラフィーによる結合選択性評価、体内動態など詳細評価を行っていく予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 3件、 査読あり 14件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 11件、 招待講演 6件)
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