研究領域 | 認知的インタラクションデザイン学:意思疎通のモデル論的理解と人工物設計への応用 |
研究課題/領域番号 |
26118005
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研究機関 | 国立情報学研究所 |
研究代表者 |
山田 誠二 国立情報学研究所, コンテンツ科学研究系, 教授 (50220380)
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研究分担者 |
寺田 和憲 岐阜大学, 工学部, 准教授 (30345798)
小林 一樹 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (00434895)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 認知モデル / ヒューマンエージェントインタラクション / ヒューマンコンピュータインタラクション / 適応学習 |
研究実績の概要 |
該当年度において,以下の3つの研究プロジェクトを並列して遂行した. 1. リーダーフォロワー関係の適応認知モデルの構築:2人の人間による協調作業において見られる関係に,意思決定の対立時にどちらに従うかというリーダーフォロワー関係(LF関係)があるが,システムと人間におけるLF関係の成立要因は解明されていない.本プロジェクトでは,宣言マークマッチングゲームにおいて,人間のユーザと知的エージェント間におけるLF関係の認知的決定要因モデルを実験的に解明した結果,「人間はエージェントの知性の高さよりも,エージェントのリーダー志向の強さに影響をうけて,自らフォロワーになる」ことが示唆された. 2. 方向を直感的に伝達できるモノラルビープ音パターンの設計:モールス信号のような非常にシンプルなビープ音パターンによって,上下左右の方向を予備知識や訓練なしに人間に伝達できる方法論を開発した.実際に,様々な認知モデルに基づいて,複数のビープ音パターンを実装して,参加者の協力により比較実験を行った.その結果,精度80%を超えるビープ音パターンを実装できた. 3. ユーザの信頼遷移モデルに基づく商品推薦エージェントの設計:ユーザの感情とエージェントの知性を2変数としたユーザの信頼状態遷移モデルを構築し,それに基づいて,遷移オペレータ(情動伝染や知的な推薦)を商品推薦エージェントが実行することで,ユーザの信頼感をコントロールする枠組みを提案し,その有効性を参加者実験により確認した. 4. ヒューマノイドロボットインタフェースによるノンバーバル情報表出の促進:音声コマンドシステムをベースに,ユーザが対人であれば自然に表出されるノンバーバル情報を対人工物に対しても引き出せるようなロボットインタフェースを実装し,その効果を実験的に評価した.その結果,対PCと対ロボットでは,ユーザの表出が異なることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた研究テーマは,「1. リーダー・フォロワー関係の適応認知モデルの構築」, 「2. 方向を直感的に伝達できるモノラルビープ音パターンの設計」,「3. ユーザの信頼遷移モデルに基づく商品推薦エージェントの設計」,「4. ヒューマノイドロボットインタフェースによるノンバーバル情報表出の促進」の3つであった.このうち,1, 2, 3については,オンライン実験システムを導入した実験環境を整備して,その実験環境で30名以上の参加者による評価実験を行った.そして,その実験結果を統計的に分析することで,提案方法の有効性,妥当性を検証することができた.さらには,ユーザ適応システムに人間を従わせるにはどのようなインタラクションデザインが必要か,背景知識なしに直感的にモノラル音で方向を伝達できる表出の設計論,ユーザの信頼を獲得できる商品推薦エージェントの設計論について,さまざまな知見が得られた.また,それらの結果を学会発表できるレベルまでまとめることができた.しかし,残念ながら,3.においては,ヒューマノイドロボットNAOを用いた実験システムの開発が予定通りには進まず,数名の参加者による実験に留まり,実験条件も十分ではなかった. 以上を総括的に評価するに,現在までの進捗状況は「(2) おおむね順調に進展している」であると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,平成27年度における研究の未完成な部分を遂行して,完成させることに加えて,新しい研究テーマについて,研究を進める予定である. 1. A01班との共同研究:A01班では,旅行商品の対面販売における姿勢,対話等の分析を行っており,そこからユーザ状態推定に有効なヒューリスティックスが得られている.それらと,C01班の商品推薦エージェントの設計論を融合することで,新しいエージェント設計,インタラクションデザインの研究を展開する. 2. リーダーフォロワー関係モデルの追加実験:LF関係の参加者実験を平成27年度で行ったが,エージェントの能力とリーダー志向が共に低い条件での参加者実験が抜けていたので,実験結果の信頼性を高めるために,その条件での参加者実験を行う.予想される結果は,参加者はフォロワーにならないという傾向である. 3. 社会的グルーミングインタラクションによる邪魔にならない情報通知:本研究課題のメイン研究テーマの1つである周辺認知テクノロジーに関する新テーマとして,スマートフォンを載せた小型移動ロボットによる情報通知において,ユーザのパーソナルスペースに介入することを許可されることで,ユーザからの親和性を高めるインタラクションデザインを実現する.親和性が高くなることで,情報通知を邪魔に感じないことを狙っている. 4. モノラルビープ音パターンによる方向性の伝達:平成26年度でその有効性を確認したモノラルビープ音の系列パターンにより上下左右4方向を伝達する研究をさらに推進する.特に,視覚的探索の分野での音声モダリティによるナビゲーションへの応用を計画している.
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