研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
26119002
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神田 大輔 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (80186618)
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研究分担者 |
稲垣 冬彦 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 特任教授 (70011757)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | タンパク質 / 動的構造 / X線結晶解析 / 結晶コンタクト / 融合タンパク質 / Tom20 / シグナル配列 / オリゴ糖転移酵素 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアプレ配列受容体であるTom20タンパク質に結合した状態のプレ配列ペプチドの大きな運動性を定量的に解析するために,マルトース結合タンパク質(MBP)との融合タンパク質をデザインした.隙間に位置したプレ配列ペプチドの運動の空間分布を視覚化するために,プレ配列のモデルを置かずに作成した差フーリエ電子密度マップを用いる.本年度はバルクソルベント補正の影響を検討した.バルクソルベントとはタンパク質結晶において,タンパク質分子間の空間を埋めているディスオーダーした水分子やイオンを指し,低分解能側のX線回折の強度を減少させる.このバルクソルベントによる減衰効果を補正する計算手法がバルクソルベント補正であり,通常のX線解析計算でも考慮されているが,本法では差電子密度マップの作成の際にローパスフィルターを使って低分解能側の回折データだけを抜き出して使うために,その影響を詳細に評価することが重要である.3つのX線解析計算用プログラム, REFMAC5, PHENIX, CNSを比較したところ,ほぼ同等の品質の電子密度が得られた.さらに詳しくみると,PHENIXの場合に一番体積の大きい電子密度が得られており,最新のバルクソルベント補正アルゴリズムを用いていることが理由であると推察された. 本法の適用を広げた.オリゴ糖転移酵素はN型糖鎖付加配列のアスパラギン残基にオリゴ糖鎖を転移する活性を持つ.この時,酵素は糖鎖付加配列中の3番目のセリン・スレオニン残基の側鎖を認識するポケットを用いて,糖鎖付加配列を認識することがわかっている.このポケットを構成するアミノ酸残基を含む20残基程度のセグメントが大きな運動性を持っていることがわかっているので,MBPとの融合タンパク質をつくって結晶解析を行った.その結果,このセグメントの大きな振幅の運動を可視化することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結果的に原書論文(Protein Science, 2015)としてアクセプトされたが,採択に至るまでに,複数のレビューワーからのコメントに答えるための実験や原稿改訂に長時間を要した.上述のバルクソルベント補正の問題はその際に提起されたものである.今回の論文は,従来のタンパク質のX線結晶学のコンセプトには無いまったく新しい発想に基づいているため,レビューワーからのコメントも相当厳しいものがあったが,それらをクリアしたことで,多くのX線結晶科学者の疑問に答える水準になったと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
論文審査過程のレビューワーからのコメントに答えるなかで,X線損傷を避けるために結晶をクライオプロテクタントの存在下に急速凍結させる操作中に,観測対象の運動分布に偏りが生じる可能性があり,しかもその偏りの仕方が結晶毎に異なる可能性があることがわかってきた.そこで,シンクロトロン施設における室温での回折測定の予備実験を行い,X線損傷の問題を回避できそうな感触が得られた.得られた電子密度の分布をクライオ凍結結晶と室温結晶で比較することで興味深い結果が得られると期待している. 結晶コンタクトフリー空間の応用の1つとして,結晶コンタクトによる「柔動構造の変形問題」の解決が考えられる.酵母のTim21タンパク質の結晶構造とNMR溶液構造では一部の構造が異なっている.そこで,この部分を結晶コンタクトフリー空間に置くことで,結晶内で溶液構造が再現されるかどうかを確かめる.そのための融合タンパク質のデザインとタンパク質発現を行う.
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