研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
26119003
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
安藤 敏夫 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 特任教授 (50184320)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 高速AFM / 走査型プローブ顕微鏡 / 蛋白質 / バイオイメージング / ダイナミクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高速AFMのバイオ応用研究を自ら推進するだけでなく、公募班員と計画班員にも装置を開放して、タンパク質分子が動作する姿を活写する動的構造生命科学を協力して幅広く新規開拓するとともに、装置の高度化を更に進めて、従来技術では観察不可能な分子レベルで起こる現象を観察可能にすることにある。班員との共同研究では、例えば、枯草菌のH+とNa+それぞれの濃度勾配で駆動される二種の鞭毛回転モーターの活動がイオン種に応じて切り替わる仕組みを解明した。また、べん毛成長の段階に応じてタンパク質合成を切り替え、輸送装置がべん毛先端へと輸送されるタンパク質を切り替える仕組みの一端を解明した。独自に進めた応用研究では、バクテリアの膜孔形成毒素のひとつであるStreptlysin O (SLO)による膜孔形成過程で起こるいくつかの反応の詳細を明らかにした。二つの同等なリングが背中合わせになった構造を有する大腸菌のシャペロニンGroELについては、その反応サイクルの詳細と二つのリング間で生ずる二種のアロステリックな協同性の存在を解明した。その他の多様なタンパク質系でも、動的構造変化、動的相互作用の可視化に成功した。高速AFMの高度化技術開発では、外力作用下にあるタンパク質分子の可視化に向け開発した探針走査型高速AFMと光ピンセットとの複合装置を用いて、実際の測定に適したアッセイ系の開発を進めた。また、AFM探針に金属コートを施し、そこで発生するプラズモン共鳴を利用した超解像蛍光顕微鏡と高速AFMとの複合装置の開発を引き続き進めた。前者は実現可能性が見えてきた。後者については電磁波の探針による増強効果が期待したほどには大きくないという問題があることが明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速AFMのタンパク質分子への応用研究は期待した以上の成果が上がっている。単にタンパク質が動いている様子を可視化しただけに留まらず、機能発現メカニズムに深い洞察を与える成果が得られている。例えば、二種のバクテリア鞭毛回転モーターの活動がイオン種によって切り替わる仕組みが明瞭に解明された。具体的には、ペプチドグリカン層に結合して固定子として働くMotPSのMotSの部分がNa+存在下ではfoldした構造をとりペプチドグリカン層に結合するのに対して、K+存在下では構造が解けるため結合できなくなり、固定子として機能しなくなるという仕組みである。SLOでは、SLOのリング構造体が膜に結合すると脂質の相分離が起こるとともに、リング内のサブユニット間の協同性により、膜に次々と刺さっていくドミノ反応が起こり、最終的にリング全体が膜に刺さることを見出した。また、リング構造体の中心部には最終的に膜に刺さる部位が突き出ていて、その部位が膜に向かって降りて行くことが見出された。シャペロニンGroELでは、主反応サイクルにおいては二つのリングで反応が交互に進み、ひとつのリングでのATPの加水分解反応が他方のリングからのADP解離反応とカップルし、また、ひとつのリングでのATP結合反応が他方のリングからのPi解離反応とカップルすることにより、この交互のリズムが生ずることを見事に解明した。探針走査型高速AFMと光ピンセットとの複合装置を完成させ、試験実験を進めてきた。その試験実験を通して可決すべきアッセイ系のいくつかの問題を見出し、ひとつずつ解決してきた。その結果、タンパク質分子とビーズをつなぐDNA先端に工夫を施し、且つ、光ピンセットを観察中に振動させることにより、DNAと結合しているタンパク質分子の局在を高速AFM観察により見出すことができるようになってきた。以上のように、全体として概ね順調に研究は進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
新学術領域研究は個人研究とは違い、多くの班員と協力してひとつの新学術領域を創成していくことが期待されている。これまでに進めてきた班員との高速AFMを活用した共同研究に加え、毎年開催してきたHands-on形式の夏の学校の開催、及び、研究者を招へいし、二か月間集中的に高速AFM観察実験を行って頂く活動などを通して、高速AFMの利用者が増え、動的構造生命科学という新規分野が着実に育ってきた。本プロジェクトの期間内にこれらの活動を継続するとともに、プロジェクト終了後も違う形でこれらの活動を継続することを考えている。高速AFMの機能拡張も進んでいることから、この新領域の先頭を走りつつ、新規技術の普及も進めて行きたいと考えている。
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