計画研究
本研究では、ODMR(光検出磁気共鳴)を利用した細胞・生体の超分解能イメージングとin-cell NMR法の開発により細胞内における動的構造生物学の手法の確立を、通常のin vitroにおける構造解析と共に遂行した。ODMRを利用したこのイメージングにおいて必要となる要素技術は、①測定技術、②プローブ粒子の至適化とタンパク質の標識化、③細胞へのターゲッティング、④得られた情報の処理と解釈である。①については、本年度までにプローブ粒子の角度変化(回転運動)を精密に解析する手法を確立した。②のプローブの至適化には目覚ましい進歩が見られた。先ず5 nm径程度の超微粒子を表面加工することでODMR活性とする事ができ、小粒子化に成功した。さらに表面をHPG(超分岐化グリセロール)でコーティングすることで、粒子間の非特異的吸着による凝集体形成を回避させ、またタンパク質・脂質等への非特異的吸着を激減させることが出来た。また③についてもプローブ粒子を抗体と架橋することで細胞膜タンパク質のターゲティングに成功した。in-cell NMRに関しては、安定同位体による均一標識に加えて、細胞内タンパク質の大きな構造・運動性・相互作用をより効率よく正確に検出することを目指し、常磁性金属タグを利用した手法の導入を検討した。本年度は主としてin vitroにおける予備実験を行い、常磁性金属タグによる長距離のNMRシグナルに与える効果を確かめた。また細胞内タンパク質のS-S結合の還元開裂の時定数計測にも成功し、細胞質における酸化還元電位を推定出来た。さらに、19Fでアミノ酸特異的に標識したタンパク質を測定し、相互作用や運動性などの部位特異的な情報が比較的短時間の測定で得られることを示した。またリジンの側鎖を13C-ジメチル修飾したタンパク質で比較的簡便に高感度測定しうることを示した。
2: おおむね順調に進展している
ODMRを利用した細胞・生体の超分解能イメージングとin-cell NMR法に関する手法開発は順調に進行している。ODMRに関する研究で必要となる要素技術は、①測定技術、②プローブ粒子の至適化とタンパク質の標識化、③細胞へのターゲッティング、④得られた情報の処理と解釈、である。本年度までに①~④に関して、基本となる部分の開発は遂行しており、生細胞膜に局在する膜受容体タンパク質にターゲットしたタンパク質の回転運動性を定量的に測定し、膜が細胞骨格の密度に依存して、等方的に運動していることを示し得た。また生きた線虫の腸内における粒子の運動を観察し、腸の軸と垂直の軸周りの回転運動が存在することを示した。これは腸内の線網状突起に由来すると推定している。in-cell NMRに関しては、構造・相互作用・運動性の解析をスムーズに行うために19Fでアミノ酸特異的に標識したタンパク質の測定を行い、比較的短時間で部位特異的情報が効率よく得られる可能性を示せた。特に相互作用解析には有用であろう。一方、線形が広幅化しやすいので、標識法を改良しなければ、高分子量タンパク質の良質なin-cell NMRスペクトルは得られないであろう。高分子量タンパク質に関してはリジンの側鎖を13C-ジメチル修飾したタンパク質を使った測定が有用であることを示し得た。並行して、ポリユビキチンが形成する繊維状凝集体の形成機講と構造の解析を行った。ポリユビキチンは熱や流体力学的力により、架橋のタイプにかかわらず凝集体を形成する。in vitroで形成する凝集体は線維構造を持つ。凝集体は細胞内でも形成し、オートファジーによって分解される。本年度までに、繊維の構造を反映すると思われる二量体を調製し、NMR等により種々の解析を行った。
ODMRに関する研究では、要素技術となる①測定技術、②プローブ粒子の至適化とタンパク質の標識化、③細胞へのターゲッティング、④得られた情報の処理と解釈、について完成を目指す。①に関しては装置の改良、特に光学系検出器の感度向上と検出手法の至適化により時間当りの感度向上を目指し、5 nm径粒子を用いて細胞における高時間分解能イメージングを達成する。また磁気共鳴系においてはマイクロ波をパルス照射し得るハードウエアを改良し、感度上昇を目指すと共にELDORなどの多重共鳴パルスESR測定によるスピン間距離の計測へと進む。加えて、磁場勾配装置の導入により直交座標系における超高磁場ESRイメージングの実現を目指す。これらの測定手法の導入、改良に伴い、②と③のプローブ標識化もスピン標識とのダブルラベルなど必要に応じて手法開発を進める。In-cell NMRに関しては、まず常磁性金属錯体標識による長距離隔てた核へのNMRシグナルの影響が見られるかを高分子量タンパク質や相互作用するタンパク質のスペクトル測定によって確認する。その後、実際に座標から推定した値と実測値を精密に比較することで、その効果が定量的で構造解析に利用できるかを判断する。19F標識やリジン側鎖のジメチル化に関しては、in-cell NMRで標識タンパク質の測定が可能であることが確認できたので、H27年度以降は、それらがタンパク質間相互作用部位の解析に利用できるか、すなわち標識部位が相互作用面に存在する場合シグナルが特異的に変化するか、を観察する。また相互作用面に存在する19Fやメチル基と結合相手であるタンパク質のプロトン間に分子間NOEが観察されるか否かを確認する。これらと並行して、ポリユビキチンが形成する繊維状凝集体の形成機講の解明を目指して、繊維の構造を反映すると思われる二量体のin vitroでの構造解析を行う。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 12件、 謝辞記載あり 10件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Journal of Nanoscience and Nanotechnology
巻: 15 ページ: 1014-1021
10.1166/jnn.2015.9739
RSC Adv
巻: 5 ページ: 13818-13827
10.1039/C4RA16482B
Chemistry letters
巻: 44 ページ: 354-356
10.1246/cl.141036
Yakugaku Zasshi
巻: 135 ページ: 391-398
10.1248/yakushi.14-00240-3.
Nat Commun.
巻: 20 ページ: 6116-6116
10.1038/ncomms7116.
J Am Chem Soc.
巻: 137 ページ: 799-806
10.1021/ja510479v
Diamond and Related Materials
巻: 49 ページ: 33-38
10.1016/j.diamond.2014.07.011
Nat Commun
巻: 5 ページ: 5340-5340
10.1038/ncomms6340
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 111 ページ: 17236-17241
10.1073/pnas.1414867111.
Acta Crystallogr F Struct Biol Commun.
巻: 70 ページ: 1351-1356
10.1107/S2053230X14016926.
J Biol Chem.
巻: 289 ページ: 13890-138902
10.1074/jbc.M114.555441
Plant J.
巻: 78 ページ: 1014-1021
10.1111/tpj.12528