計画研究
前年度までに確立したチオレドキシン(Trx)のAla側鎖メチル基のin-cell NMRシグナルに基づいて、酸化ストレスに対する細胞内応答の検出を試みた。培地に添加する酸化剤としてはチオール基選択的に作用するdiamideを用い、酸化剤非存在下および存在下で1H-13C SOFAST-HMQCスペクトルを取得した。その結果、酸化剤の添加に伴いTrxのA29の還元型のシグナルが減少するものの酸化型のシグナルは出現せず、diamideを除くと再び還元型のシグナル強度が回復した。そこで、13C軸の化学シフト展開を行わずに1測定5分間の1次元測定によりA29シグナルの変化を追跡した結果、Trxは一過的に酸化型へと移行するものの、その後酸化型のシグナルが消失することを見出した。一方、Trxの活性中心以外に存在する3残基のCysをSerに置換した変異体で同様の実験を行うと、還元型シグナルの減少に従って酸化型のシグナルが出現したことから、野生型Trxにて観測された酸化型シグナルの消失は活性中心以外のCys残基への酸化的な修飾によるものであることが明らかとなった。また、バイオリアクターを用いたin-cell NMR法を接着状態の細胞にも適用範囲を拡大するため、細胞を封入するゲル素材の検討を行った。3次元培養に用いられるMatrigel内に細胞を封入し、培地灌流下で細胞内ATP濃度の変化を測定した結果、22時間にわたって細胞内が生理的条件に保持できていることが判明した。よって接着状態の細胞を対象としたin-cell NMR測定への道が開かれた。
2: おおむね順調に進展している
細胞に対して酸化ストレスを添加してin-cell NMR計測を行った結果、Trxの活性中心以外のCysに酸化的修飾が生じていることが明らかとなり、酸化ストレス依存的な細胞応答の観測に成功したため。
予定通りに進んでおり研究計画に特段の変更はないが、細胞に対して作用機序の異なる酸化ストレスを加えるなどの変更を行う。また、in-cell NMR測定後の細胞をウェスタンブロットにより解析し、Trxに生じている酸化的修飾の分子論的実体を解析する。加えて、細胞内シグナル伝達蛋白質などの他の細胞内応答についてもin-cell NMRによるリアルタイム観測に着手する。
すべて 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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http://ishimada.f.u-tokyo.ac.jp/public_html/index_j.html