研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
26119005
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西田 紀貴 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (50456183)
|
研究分担者 |
甲斐荘 正恒 首都大学東京, 理工学研究科, 客員教授 (20137029)
|
研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
|
キーワード | in-cell NMR / 酸化ストレス / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
前年度までに確立した細胞内チオレドキシン(Trx)とグルタチオンの酸化還元状態の両方をin-cell NMR観測する手法を利用して、細胞に酸化ストレス条件下における細胞内酸化還元電位とTrxの酸化還元状態の変化のリアルタイム観測を行った。その結果、細胞内Trxの酸化還元状態はin vitro条件下よりも還元型に保持されていることが判明した。また、Trx還元酵素(TrxR)阻害剤を用いたin-cell NMR実験を行った結果、酸化ストレス下ではTrxRがTrxを還元状態に保持する上で大きく影響を与えていることが示された。したがって、Trxの酸化還元状態は細胞内酸化還元電位と細胞内因子の両方の制御を受けることでin vitroとは異なる酸化還元プロファイルを示し、細胞内レドックスセンサーとしての機能を果たしていることが明らかとなった。 また前年度までに確立した低分子量GTPase Rasのin-cell NMR観測法を用いて、Rasの発癌性変異体の細胞内環境下における活性状態(GTP結合型割合)の解析を行った。その結果、代表的な発癌性変異体であるG12Vの細胞内における活性割合は約20%であり、in vitro計測値よりも顕著に低下していた。また、GTP型割合の経時変化から算出した細胞内の加水分解速度定数はin vitroよりも顕著に増大し、一方GTP-GDP交換速度定数は顕著に低下していることが判明した。Q61L、G13D変異体についても同様の傾向を示したことから、細胞内のRasは内在性のGTP加水分解活性化蛋白質などの作用により、活性状態がin vitroよりも抑制されていることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化ストレスに対する細胞内分子応答の観測については、これまでに開発した細胞内グルタチオンとTrxの酸化還元状態の両方をin-cell NMR法により観測する手法を用いて、細胞内酸化還元電位の変化とTrxの酸化還元状態のリアルタイム観測を行った。その結果、細胞内Trxの酸化還元状態は細胞内因子の寄与によりin vitroよりも還元型にシフトしていることを見出し、Trxが酸化ストレスに対して適切に応答する機構を提唱することができた(Mochizuki et al, J. Am. Chem. Soc. (2018))。また、本論文は掲載号の’Spotlights’に採択された。 細胞内シグナル伝達タンパク質の活性化制御機構のリアルタイム観測についても、Rasの発癌性変異体(G12Vなど)の細胞内におけるGTP型割合を算出し、野生型と同様にin vitroよりもGTP型割合が低下していることを見出した。またin-cell NMRスペクトルにおけるGTP型割合の経時変化から細胞内のGTP加水分解速度定数およびGDP-GTP交換速度定数の算出にも成功しており、順調に進捗していると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
細胞内におけるRasの活性状態(GTP結合型割合)のin-cell NMR観測を行った結果、野生型Rasおよび発癌性変異体(G12V、G13D、Q61L)の細胞内におけるGTP結合型割合はin vitroにおける計測値よりも低下していることが明らかとなった。また、細胞内ではin vitroと比較して加水分解速度定数(khy)が上昇し、GDP-GTP交換速度定数(kex)が低下していることも明らかとなった。そこで本年度は細胞内におけるRasのGTP結合型割合に変調を与える要因を解明することを目指し、(I)内在性GTPase活性化蛋白質(GAP)、(II)Rasエフェクター分子の寄与、(III)細胞内分子混雑環境の3点に着目した解析を行う
|