研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
26119006
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
杉田 有治 国立研究開発法人理化学研究所, 杉田理論分子科学研究室, 主任研究員 (80311190)
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研究分担者 |
TAMA FLORENCE 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (20648191)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 分子動力学法 / 粗視化分子モデル / マルチスケール法 / 生体超分子複合体 / 構造解析法 / 膜タンパク質 / シミュレーション / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、タンパク質などの異なる立体構造を接続し、機能発現する姿を理論的に予測することである。実験的には、このような構造変化の詳細、すなわち、立体構造変化を高解像度に観察することは通常は困難である。実験的に得られた低解像度低次元の動的構造情報を分子動力学シミュレーションの中で利用して、長時間ダイナミクスの詳細を理解する手法を開発することが狙いである。 このため、我々は理研で開発している分子動力学ソフトウェアGENESISをさらに高速化し、より長時間のダイナミクスの実現を図った。新しいバージョンでは、マルチタイムステップでの時間積分や効率的な非共有結合相互作用の計算が可能となり1.5から2倍の高速化を実現した。また、分子動力学シミュレーションから自由エネルギー解析を行うために必要な効率の良いアルゴリズム(String Method, Gaussian Acceralated Molecular Dynamics, generalized Replica Exchange with solute temperingなど)を開発し、GENESISに導入することで実行的に数十倍から百倍の構造探索を実現した。また、クライオ電子顕微鏡の電子密度に対して異なる立体構造を当てはめるFlexible Fitting計算における並列化を丁寧に行い、この計算を加速した。現在ターゲットとして計算しているカルシウムイオンポンプ、ヘムトランスポータなどにこれらの手法を適用し、機能に重要な大きな構造変化を可視化した。 Tamaグループにおいては、本研究領域の神田らと連携し、X線結晶構造解析で得られたタンパク質ダイナミクスを分子動力学計算を用いて解釈することに成功した。また、ヒトCK2キナーゼの阻害剤結合型とアポ型における運動性の違いを分子動力学を用いて評価し、特異性や活性との比較を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
flexible fittingについては、論文投稿をすでに行い、現在リバイス中であるため当初の計画を超えて研究が進展している。一方、自由エネルギー計算については、String法を終えた後にアンブレラサンプリング法を行い、構造変化に伴う自由エネルギー変化を観察する計画であったが、未だに収束が悪く、細かな手法のチューニングが必要であることがわかってきた。それらを含めて、総合的に考えると研究は概ね順調に進展していると言える。 自由エネルギー計算の収束が悪いことについては、様々な理論的検討を加えて試行錯誤を繰り返しており、ようやく改善の目処がつくところまで進展してきた。まだ大規模シミュレーションを実行している段階ではあるが、今年度中にこの計算を完了させ、ある程度定量的に構造変化の分子機構を評価できることを示したい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度であり、これまで開発してきた手法を発展させ、大規模なシミュレーションを実施する。カルシウムイオンポンプについては、これまで行ってきたカルシウム脱離に伴う膜貫通部位と細胞質ドメインの運動の相関を明らかにする。ヘムトランスポータについては、閉塞状態のモデリングとATP結合の役割を解明する。これらについては予備的な分子動力学計算がすでに行われているため、それを生かした大規模計算を行う。 Tamaグループは、溶液中だけでなく結晶中でのタンパク質の分子運動を理解するため、結晶環境を取り込んだ大規模系の分子動力学を実施する。さらに、クライオ電子顕微鏡のみならずAFMのデータを用いた理論解析も実施する。
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