計画研究
生物の細胞は,生体膜によって異なる空間が保持されており,生体膜を介したタンパク質の膜透過・膜組込みは必須の生命活動である。リボソームにより合成されたタンパク質が膜を越えるためのチャネルとして機能するのがSecトランスロコンである(細菌ではSecYEG複合体,真核生物ではSec61αγβ複合体)。これまでに複数のSecトランスロコンの構造が報告され,タンパク質膜透過機構のモデルが提唱されてきたが,さらなる詳細な議論のためにはこれまで以上の解像度が必要であった。今回我々の研究グループは脂質キュービック相(LCP)法で得られた結晶から,これまでで最も高分解能のSecYEG複合体の構造をX線結晶構造解析により決定した。SecYEGを構成するほぼ全てのアミノ酸残基を正確に配置でき,SecGのループがSecYにより形成されている透過孔を塞ぐように位置しているという新しい知見が得られた。そこで,SecGのループをSecYの細胞内側の表面に固定した変異体を作製したところ,タンパク質の膜透過が阻害され,その後固定を外すと正常に膜透過された。このような機能解析や,過去の構造との比較,MDシミュレーションの結果から,閉状態のSecYEGでは,分子やタンパク質の拡散を防ぐためにSecGのループがポアの「キャップ」として働き,膜透過状態ではその「キャップ」を退けることで,タンパク質の輸送を調節していると考えられる。プラグとよばれる部位が細胞外側から蓋をしているという過去の知見と組み合わせて、透過孔は細胞膜の両側から閉ざされ、タンパク質の輸送に応じて開くという新たなモデルを提唱した。今回の報告は,SecY,SecE,SecGすべての構成要素を含む完全なSecトランスロコンの高分解能の報告であり,生命活動に必須であるタンパク質輸送の基礎研究の発展に大きく貢献するものである。今後,Secトランスロコンの構造・機能解析及び動態観察に至るまで幅広く利用されることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
研究計画にそって順調に進めている。本年度は,SecYEGの高分解能の報告を行い,動的メカニズムの解明にむけた足がかりを得た。
SecYEGトランンスロコンを経由するタンパク質の膜透過は,全ての生物が持っている基本的なメカニズムの一つである。小分子やイオンなどの透過を最小限に,タンパク質という巨大な分子を膜透過させるためには緻密な仕組みが必要である。SecYEGはタンパク質膜透過のための孔を形成するが,単独では機能せずSecA ATPaseなどの別の因子が必要である。SecAはSecYEGと相互作用し,ATPの加水分解を利用してタンパク質の膜透過を駆動するモータータンパク質である。加水分解のサイクルに伴った反復運動を繰り返すことによって,段階的に基質タンパク質をチャネル内に押し込みタンパク質を膜透過させる。昨年度,SecYEGの高分解能解析を達成し動的メカニズムについて詳細に議論ができるようになり,動的メカニズム解明にむけた準備を進めた。現在のところ,どのような構造変化を起こしながらタンパク質を膜透過させているのかの詳細については不明である。本研究ではタンパク質の膜透過を,in vitroで再現して,高速原子間力顕微鏡などを用いてタンパク質膜透過反応を可視化する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 7件、 招待講演 6件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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http://www.naist.jp/pressrelease/detail_j/topics/2162/