研究領域 | 脳内身体表現の変容機構の理解と制御 |
研究課題/領域番号 |
26120002
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研究機関 | 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 |
研究代表者 |
今水 寛 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報通信総合研究所・認知機構研究所, 所長 (30395123)
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研究分担者 |
大木 紫 杏林大学, 医学部, 教授 (40223755)
前田 貴記 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (40296695)
村田 哲 近畿大学, 医学部, 准教授 (60246890)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 脳内身体表現 / 身体意識 / 運動主体感 / 身体保持感 / 仮想現実 / ミラーニューロン / 統合失調症 |
研究実績の概要 |
本研究は,脳内身体表現の知覚的側面として,身体意識(「自身が運動している」という運動主体感と「これが自身の身体である」という身体保持感)の神経基盤を解明し,これに神経科学的介入を行い,リハビリテーションに役立てる方法を開発することを目指す.今年度は,身体意識の客観指標を構築するための実験方法,脳活動解析法を開発するとともに,サルを対象とした電気生理実験で脳内身体表現の一部を特定することに成功した.具体的には,(1)運動主体感の指標としての「意図による束ね(intentional binding)」の神経基盤を脳磁図で明らかにするため,運動準備電位の時間遅れを定量的に評価する方法の開発を行った.(2)主体感・保持感を脳活動から復号化・再構成して客観指標を構築するため,脳内の機能的な結合からヒトの行動を高い精度で予測する方法の開発を行った.(3)心理物理的手法を用いて,身体保持感に基づく自動的な運動補正の仕組み,主体感が保持感を導く仕組みを解明した.(4)身体意識を心理実験で操作するため,仮想現実を用いたシステムを構築し,身体意識に関わる客観的指標(実際の手の位置の視覚判断や反対側の手による判断,到達運動,運動の軌跡など)を計測し,手の位置判断は身体所有感を,運動の上手さは運動主体感を,一部反映することを見出した.(5)自己の身体の状態を符号化する脳内身体表現の神経基盤を調べるため,サルの下頭頂葉のAIP野及びPFG野の手操作運動関連ニューロンやミラーニューロンの活動を記録し,これらのニューロンが把持運動のキネマティックスを視覚的に符号化していることを明らかにした.(6)統合失調症患者における運動主体感の変容を客観的に評価する手法の精緻化と数理モデルの探索を行い,患者における脳活動計測を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
身体意識の神経基盤を解明するための基礎的な実験方法,解析方法,モデル化の準備が順調に進んでいる.特に,身体意識の客観指標を構築するための実験方法の検討と,身体意識を再構成するための復号化手法の基礎技術開発を行い,その過程で4本の論文を国際誌に発表した.また,サルを用いた電気生理実験では,脳内身体表現の神経基盤として,身体状態の符号化を行う脳部位を特定することに成功し,その成果を国際誌に発表した.領域内のモデル班と共同で,身体意識のモデル化を行うことも急速に展開している.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に開発した実験方法や解析方法を基礎にして,身体意識の客観的な指標を確立,その神経基盤を解明するとともに,脳内身体表現の長期的な変化を調べる実験に着手する.脳損傷事例の知見も参照しながら,神経基盤を多角的に解明することを行う.科学的な解明に留まらず,リハビリテーションに役立てるためには,身体意識の変化を定量的に予測し,制御する必要がある.このため,主観的な身体意識を脳活動から再構成する手法の開発にも取り組み,モデル班との共同で,身体意識の変容に関する数理モデルの構築と精緻化を行う.これらを統合して,身体意識を介入・操作する手法を開発し,リハビリ班と共同で,身体意識の客観指標に基づく新たなリハビリテーション方の開発を進めて行く.
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