研究領域 | 脳内身体表現の変容機構の理解と制御 |
研究課題/領域番号 |
26120002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今水 寛 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (30395123)
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研究分担者 |
大木 紫 杏林大学, 医学部, 教授 (40223755)
前田 貴記 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40296695)
村田 哲 近畿大学, 医学部, 准教授 (60246890)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 脳内身体表現 / 身体意識 / 運動主体感 / 身体保持感 / 脳情報抽出 / 感覚抑制 / 機能的結合 / 統合失調症 |
研究実績の概要 |
新学術領域「脳内身体表現の変容機構の理解と制御」において,本研究項目では,身体運動の知覚的側面として身体意識を扱う.身体意識は「この身体は自分のものであるという」身体保持感と,「まさに自分が運動している」という運動主体感から成る.その神経基盤を明らかにし,身体意識が脳内身体表現を変容させる過程を調べ,身体意識に介入・操作する手法を開発する.今年度は,身体意識に関するサルの神経細胞活動記録と,リハビリ現場での応用を目的とした脳波計測で進展が見られた.具体的には,今水らのグループは,運動主体感の基盤となる運動の自他帰属を,機能的磁気共鳴画像(fMRI)から解読することを行った.その結果,主体感の基盤となる運動の予測誤差を解読できる領域は,自他帰属を解読できる領域の一部(感覚運動領域)であることを明らかにした.このことは,予測誤差は自己帰属にとって重要ではあるが,自己帰属を完全に決める情報ではなく,予測誤差から自己帰属に至るまでの過程を明らかにすることの重要性を示していた.大木紫らは,身体保持感の有無を解読する手がかりとなる脳波の成分を特定することに成功した.村田哲らは,サルの電気生理実験で随伴発射による感覚抑制を捉えることに成功し,身体意識の成立過程について神経細胞レベルで解明する糸口を得た.前田貴記らは,統合失調症患者の脳活動計測の結果から,患者の脳内において特定の機能的な結合(尾状核ー右縁上回)が低下していることを突き止め,統合失調症における運動主体感変容の原因のひとつを特定することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,脳波に現れる身体意識の成分を複数特定することができたため,リハビリ班と共同開発している仮想現実(VR)システムと組み合わせて,臨床現場での応用に繋がることが期待される.また,神経細胞レベルで身体意識を解明することにおいて大きな進展が見られ,身体意識の詳細な神経基盤に迫る目処が立った.これにより,身体意識に対して,行動から神経生理まで横断的・多角的にアプローチすることが可能になった.
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今後の研究の推進方策 |
身体意識の神経基盤として,縁上回を中心とする右の頭頂ー前頭ネットワークが重要な役割をしていることが,本件研究項目での統合失調症研究を含めた,領域全体の研究成果から明らかになりつつある.加えて,運動の自他帰属において,身体意識に関連する脳情報解読技術が整いつつある.今後は,これらの成果を生かして,領域内のリハビリテーショングループと共同で,右縁上回周辺の脳活動を誘導・刺激し,身体意識への介入を行い,回復させる方法の開発へと繋げて行きたい.回復過程における脳活動の変化と,神経細胞レベルの変化を対応づけ,回復のメカニズムを検証する予定である.
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