研究領域 | 脳内身体表現の変容機構の理解と制御 |
研究課題/領域番号 |
26120003
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
関 和彦 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 モデル動物開発研究部, 部長 (00226630)
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研究分担者 |
内藤 栄一 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 研究マネージャー (10283293)
筧 慎治 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, プロジェクトリーダー (40224365)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 筋シナジー / ヒト / サル / 体性感覚 / 小脳 / 脳機能イメージング / 身体改変 / 運動スキル |
研究実績の概要 |
1. ヒトと筋骨格構造の近似したマカクサルを用い、複数の把握課題を連続して行うように行動訓練を施した。次に手指支配筋の一つの腱を手首支配筋の一つの腱に付け替える手術を行い、付け替えを行った筋が①手指支配筋の活動特徴を維持し続けるか、②手首支配筋が持っていた活動パタンを新規に獲得するか、または③全く新たな筋活動パタンを獲得するか、について検討した。 2. 小脳における状態予測の障害と,小脳性運動障害の関係を解明した。本年度は,2つのモードと臨床的な小脳症候学の関係について検討した。実は小脳性運動障害を記述する臨床用語は、100年前から混乱してきた。例えば「現象」を表す測定過大・運動分解、偶発的運動、運動開始の遅れ等の用語と、「概念」を表す反復拮抗運動不能、協働収縮不能、時間測定異常、筋緊張低下等の用語のような、レベルの異なる記述が併用されてきたところに、その一端がうかがえる。そこで我々は2つのモードの障害の観点から、全ての小脳障害を整理した。 3. C02班と連携して、iSLR法を用いた、音楽家ジストニア患者の手指脳内表現の変容の解明を行った。また、筋肉の筋紡錘センサーを振動刺激することで人間が体験できる、四肢の運動錯覚現象(姿勢変化知覚)を用い、人間が自己の身体像変化を知覚する場合には、右半球の上縦束第3ブランチで結合された前頭(44野)-頭頂(PF野)ネットワークの活動が本質的であることを明確に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 手術1日後から行動変化が起こり(fast dynamics)、それらは術後数週間に渡って連続的に変化した後、定常状態になった(slow dynamics)。これらの予備的な結果は当モデルが脳内身体表現の可塑性の変化に適していることを示していた。 2. 運動開始の遅れと筋緊張低下は間接モードの障害で,偶発的運動と運動分解は直接モードの障害で,それ以外の反復拮運動不能,協働収縮不能等々はその組合せで,全ての小脳性運動障害を二元的に説明出来ることが明らかになった.その結果,小脳性運動障害の長年の混乱を収拾し,脳内身体表現の予測という観点から再定義する基盤が整った. 3. 運動の種類を判別できるより具体的な運動プログラムの内容に関する情報は、前頭-頭頂ネットワークの活動ではなく、手と反対側の補足運動野・背側運動前野に主に表現されている可能性を示した。運動錯覚を用いた一連のMRI研究の成果を整理し、筋紡錘からの情報を受け取り、効率的に運動指令に変換できる運動領野の活動は、人間の身体図式の形成に関与し、自己の姿勢変化の知覚量を反映する前述の右半球上縦束第3ブランチ前頭-頭頂ネットワークの活動は、身体像の形成に本質的に関与することを示した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は3拠点において、それぞれの目標とする研究が本格的に開始され、一部は既に論文化がなされた。また、拠点間の共同研究も本格化している点で評価できる。今後は1)上肢筋の再配置(腱付け替え手術)による中枢神経系の適応を調べるモデルについての実験や体性感覚に介入する方法を確立する研究を継続的に推進、2)誘発性複雑スパイクによる小脳性運動失調への介入方法を確立する研究、3)手指運動のばらつきや異常を生み出す脳内身体表現の解明をおこなうための脳機能イメージングを用いた研究を推進してゆく予定である。
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