研究領域 | 脳内身体表現の変容機構の理解と制御 |
研究課題/領域番号 |
26120004
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
高草木 薫 旭川医科大学, 医学部, 教授 (10206732)
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研究分担者 |
中陦 克己 近畿大学, 医学部, 講師 (60270485)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 先行性姿勢制御 / 姿勢筋シナジー / 皮質網様体投射 / 網様体脊髄路 / 身体図式 / 前頭-頭頂ネットワーク / 運動プログラム / 歩行運動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は姿勢-歩行戦略とその変更に関与する脳内身体表現の変容機構を解明することである.平成26年度は次の2項目の研究を実施した. 1) 先行性姿勢制御を実現する運動性下行路と姿勢筋シナジー機構の同定:先行性姿勢制御は,皮質運動関連領野で生成される運動プログラムが皮質網様体投射と網様体脊髄路を介して誘発されるとの作業仮説のもと,以下の2項目について検討した. ①ヒトの先行性姿勢制御の解析;歩行の開始に先行する姿勢制御を解析した.その結果,先行性姿勢制御は歩幅の増減を反映することが明らかとなった.従って,先行性姿勢制御は予め構成される歩行動作の運動プログラムによって生成されると考えられる. ②網様体脊髄路による姿勢筋シナジーの生成:網様体脊髄路が定型的筋シナジーを生成するか否かを除脳ネコを用いて解析した.その結果,橋~延髄網様体の背腹側軸は下肢抗重力筋の筋緊張レベルの調節に,そして,内~外側軸は左右肢伸・屈筋活動の相反性調節に関与することが明らかとなった.従って,網様体脊髄路の出力は任意の筋緊張レベルで左右肢動作を誘発するという姿勢筋シナジーの生成に関与すること考えられる. 2) サルの姿勢-歩行戦略の変更を可能にるす脳内身体表現の変容機構の同定:皮質運動関連領野では随意的な局所動作とこれを支える姿勢制御という異なる身体表現を持つ運動プログラムが生成されるという作業仮説のもと,以下の研究を実施した.トレッドミル上で4足歩行や2足歩行を任意に変更できるニホンザルにおいて,皮質運動関連領野の単一神経細胞活動を解析した.その結果,一次運動野の下肢領域からは反対側の下肢動作に対応する発射活動が,そして,補足運動野からは姿勢の維持に対応する持続的発射活動が記録できた.また,これらの発射活動は4足歩行よりも2足歩行におい顕著であった.これらの成績は上記作業仮説を裏付ける画期的な業績である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新学術研究の初年度ということもあり,動物実験のトレーニングに非常に多くの時間を費やすこととなっている. 1)ネコの慢性実験では,必ずしもトレーニングが旨く進行していない一面もある.その一方,ヒトにおける臨床研究やネコにおける急性実験を試行し,本研究の作業仮説を裏付ける基礎データを着実に得ることができた点については予想以上の成果が得られたと考えている.また,ネコの入手が困難であることも考慮し,ラットによる研究も並行して実施しており,先行性姿勢制御が動物種に依存しない運動プロセスであることを証明できれば,本研究の進捗に多大な貢献を齎すと考えられる. 2)サルを用いた研究では,2足歩行と4足歩行という歩容と姿勢制御を任意に変更できるトレーニングに加えて,環境が変化する際(障害物回避や傾斜面歩行など)の歩行トレーニングも実施している.2足歩行と4足歩行のトレーニングは非常に旨く進行しており,その結果,上に示したような画期的な研究成果を得ることができた. これらの研究進捗状況を踏まえて,研究は概ね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
1)ヒトにおける先行性姿勢制御の解析. 申請段階では予定していなかった研究であるが,昨年度の研究成果が非常に良好であったため,この研究を引き続き継続することとする.特に,①2足起立動物だるヒトと4足起立動物であるネコにおいて先行性姿勢制御の時空間関係の相違の有無や共通するパラメータが存在するか否かを解析のポイントにする.また,②姿勢制御に必要な脳内の身体情報を取得するためには視覚・体性感覚・視覚などの多種感覚情報を統合する必要がある.そこで,これらの感覚情報の変容によって,先行性姿勢制御ならびに代償性姿勢制御がどのように変化するのかについても解析を試みる. 2)ネコおよびラットの餌取リーチングタスクモデルの確立. 本来は,26年度にこの実験モデルを確立する予定であった.ネコに加えて,ラットでのトレーニングを実施する.早急に本実験モデルを確立し,先行性姿勢制御における動力学的解析を試みる.次いで,今年度(27年度)および来年度(28年度)に予定している本モデル動物での神経生理学的研究(先行性姿勢制御に対応する網様体脊髄路細胞活動の解析)を推進する. 3)サルの姿勢-歩行戦略の変更を可能にする大脳皮質活動の解析. 26年度に引き続き,環境変化に伴うサルの2足歩行タスクトレーニングを実施する.次いで,環境変化に伴う姿勢-歩行戦略の変更に伴う大脳皮質神経細胞の記録を試みる.特に27年度は,先行性姿勢制御に強く関係すると考えられる補足運動野や運動前野の神経細胞活動を精力的に解析する.加えて,環境変化や姿勢変化に対応する自己身体認知情報をコードすると考えられている頭頂-側頭連合野の神経細胞活動の記録にもチャレンジする.
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