随意運動には,目的動作に最適な姿勢筋シナジー制御(予期的姿勢調節)が先行する.我々は,このプロセスに,頭頂皮質から前頭葉の運動関連領野へ投射系(頭頂葉~前頭葉投射)が関与するという作業仮説を提唱してきた.これまでの研究によって,前頭葉の運動関連領野の活動が姿勢筋シナジー制御に重要な役割を持つことを示してきた.そこで本年度は,動物実験において,予期的姿勢調節における頭頂皮質の機能的役割の解明を試みた. サルの歩行研究では,頭頂皮質の一次感覚野の活動を非活化するため,GABA-Aアゴニストであるムシモールを注入し,運動開始時ならびに4足から2足歩行への歩容変化に際する姿勢制御を解析した.その結果,運動開始時の姿勢移動が極めて困難(転倒)となること,4足歩行から2足歩行への姿勢変換時に顕著となる対側肢の粗雑な歩容動作(Dys-synergia)を認めた.しかし,これは歩行継続に伴って消退したことから,一次感覚野がリズミカルな自動的歩行動作よりも運動開始や歩行戦略の変容を要する随意運動プログラムを要するリアルタイムの適応動作に重要な役割を持つことを示唆する. ネコの前肢リーチング動作における姿勢調節研究では,頭頂皮質にムシモールを注入し,リーチング動作に先行する予期的姿勢調節における頭頂皮質の機能的役割の解明を試みた.その結果,予期的姿勢調節時の空間構築に変化は誘発されなかったが,姿勢調節とリーチングに要する時間の延長と運動前の標的注視動作が顕著となった.従って,頭頂皮質は,目的動作を正確に遂行するための運動プログラムを生成するにあたり,注意機能と視覚-運動連関の統合に重要な役割を持つと考えられる. これら動物実験における研究成績は,随意運動の発現において頭頂皮質が身体-空間認知情報に基いて生成される運動プログラムの生成プロセスに関与するという我々の作業仮説を支持する.
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