口蓋には侵害受容器や機械刺激受容器などの一般体性感覚受容器に加え、化学感覚である味覚受容器として味蕾が存在する。ラット口蓋では切歯乳頭、硬口蓋と軟口蓋移行部(Geschmacksstreifen)および軟口蓋に味蕾が認められるが、その発生や味覚伝達機能の獲得に関しては、舌乳頭の味蕾と比較して不明な点が多い。そこで、ラット口蓋上皮における味蕾の発生を組織学的に検索するとともに、味蕾を構成する細胞のうちII型細胞に存在すると報告されている味覚受容の機能タンパク質であるGTP結合タンパク質の一つであるα-gustducinとIII型細胞に認められ、神経線維のマーカータンパク質であるprotein-gene product 9.5 (PGP 9.5)の発現を免疫組織学的に検索し、味蕾の発生と味覚受容機能の獲得について明らかにした。 その結果、切歯乳頭では胎生20日から味孔を持たない未熟な味雷が認められ、味孔を持った成熟した味雷は出生直後にはじめて認められることが明らかになった。それに対して軟口蓋では胎生18日から味孔を持たない味蕾が認められ、胎生19日に味孔を持った味蕾が認められるようになった。成熟した味蕾が認められると同時に味蕾の一部の細胞にα-gustducinが認められた。舌乳頭での味蕾の発生やα-gustducinの発現の時期は切歯乳頭とほぼ同じであった。PGP 9.5陽性細胞は味孔を持たない味蕾にも認められた。味蕾の発生に先立ち、PGP 9.5陽性神経線維が味蕾の発生する上皮直下に集積していた。興味深いことに、味蕾が形成される以前に味覚上皮にα-gustducinおよびPGP 9.5陽性細胞が孤立して認められた。これらの孤立した陽性細胞は、系統発生学的に哺乳類以下で化学感覚受容を行っているsolitary chemosensory cellsであると思われる。ラット口蓋上皮に味蕾形成の前にsolitary chemosensory cellsが存在することは胎生期の味蕾が形成されていない時期にも味覚受容が行われている可能性を示唆するものであり、現在solitary chemosensory cellsの細胞学的、細胞化学的な特性を検索中である。
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