研究概要 |
現代宇宙論における最大の課題は,宇宙の構造がどのように形成されるかという問題である.COBEなどの観測衛星からのデータで宇宙初期の非一様性が観測され,重力不安定説が最も有力な理論になったといえるが,ヴォイドやフィラメント構造などの大規模構造に関してはまだ完全に満足すべき理論がないのが現状といえる.また,銀河分布などに見られるフラクタル的構造に関してもまだその成因など分かっていないことが多い.そこで,本研究では,自己重力系の基本的性質の理解を、特にその統計力学的観点から考察する.そのためには,非常に精度の高い数値シミュレーションが必要不可欠である.そこで,パリ天文台のCombes教授のもとで学位を取り,自己重力系の研究で著名なde Vega教授と仕事をしてきたB.Semelin特別研究員とともに本研究テーマを遂行した. 最終年度の本年度は,研究代表者がこの数年,宇宙の構造形成問題に関連して研究している非線形物理学,特に自己重力系とフラクタル構造の形成についていくつかの成果を得た.そのため,Semelin特別研究員はツリー法を用いたN体シミュレーションのプログラムを開発し,それにより自己重力系における構造形成問題の詳細な研究を行うことが可能になった.前年までは,非線形動力学としての自己重力系における非線形現象の普遍的側面について調べていたが,本年度は,それをより具体的かつ重要な宇宙の構造形成問題に適用し,構造形成の本質的な理解を得た.その結果,宇宙の構造形成において見られるフラクタル構造や非ガウス的分布などの非線形現象が自己重力系の普遍的な性質となることが明らかになり,そのようなアプローチの重要性を再確認した.また,自己重力系における自己相似解の重要性に関しても数値計算で明らかにした.今後は,この研究成果を基礎に構造形成全般に共通した普遍的性質の解明に迫りたい.
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