研究概要 |
細菌の鞭毛は細胞表層膜系内に端を発し、細胞外へ長く伸びだした超分子構造体であり、基体、フック、繊維の3つの部分構造から構成されている。このうち基体は細胞表層膜系内に存在し、中心軸をなすロッドと、内膜、ペリプラズム空間、外膜にそれぞれ局在する3枚のリング状構造体(MS、P、Lリング)から構成されている。本研究では、ペリプラズム空間の鞭毛構造体であるPリングとロッドの形成制御機構に注目し、これらの形成の補助因子FlgAとFlgIの構造と機能について解析を行った。 1.FlgA flgA突然変異体では鞭毛形成がPリング形成で特異的に阻害されることから、FlgAはPリング形成に関与していると考えられる。本研究ではFlgAに関して次の4点を明らかにした:(1)FlgAは前駆体として合成され、一般的蛋白質輸送系を介してペリプラズム空間へ輸送される,(2)FlgAはPリングが形成されるペリプラズム空間で機能している,(3)FlgA遺伝子の欠損下でもPリング構成成分のFlgIを大量発現すれば鞭毛形成能の回復がみられる,(4)FlgI同士の直接的な結合は強くないが、FlgAを介するとその結合が容易に形成される。これらの結果に基づいて、FlgAはPリング形成に関与するペリプラズミックシャペロンであるとのモデルを提案した。 2.FlgJ flagJヌル突然変異体では鞭毛形成がロッド形成のステップで特異的に阻害されることから、FlgJはロッド形成の補助因子であると考えられる。本研究ではFlgJに関して次の3点を明らかにした:(1)FlgJは鞭毛形成に関与する少なくとも2つの機能を有する,(2)N末側はロッド形成に必須の機能をもつ,(3)C末側はムラミダーゼ活性をもち、形成されたロッドとPリングのペプチドグリカン層貫通を補助する。これらの結果とこれまでの知見をもとに、細胞表層膜系におけるロッド形成過程のモデルを提案した。
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