研究概要 |
前年度までに,アデノシンをイノシンへ代謝するアデノシンデアミナーゼ(ADA)がラット脳のくも膜に特異的に発現し,脳実質に比べ20-50倍のADA活性を示すことが明らかになった。さらに,ADA阻害剤であるコホルマイシンをクモ膜下腔へ投与した結果,睡眠物質であるアデノシンの投与局所における細胞外濃度が上昇することがわかった。 クモ膜ADAを阻害することによりノンレム睡眠が選択的に誘発される 脳波・筋電位の測定と同時にコホルマイシンをラットの前脳基底部クモ膜下腔へ連続微量注入を行い,クモ膜ADAの阻害による睡眠パターンへの影響を調べた。夜間(活動期)にコホルマイシン投与(400 pmol/0.4 mL/min)を5時間続けたところ,投与期間におけるノンレム睡眠の総量が増加することがわかった。この時,ノンレム睡眠の出現頻度には差がなく,エピソードの平均持続時間が延長していることが明らかになった。また,ノンレム睡眠時の脳波スペクトルを解析したところ,実験前日と投与時では大きな差は認められなかったが,深い睡眠の指標であるデルタ波(0.5-4Hz)の成分がわずかに増加していた。これらの結果は,前脳基底部クモ膜下腔におけるADA阻害によってノンレム睡眠が選択的に誘発されることを示す。 クモ膜におけるアデノシン合成酵素5'-ヌクレオチダーゼ(5'-NT)の局在 ラット脳およびクモ膜を用いて,アデノシンの合成酵素である5'-NTの脳内分布をノザンハイブリダイゼーションによって調べたところ,クモ膜において5'-NT mRNAが脳実質各部位に対して1.3-2.8倍強く発現していることがわかった。また,5'-NT活性測定においても,クモ膜は脳実質各部位に対して1.9-3.4倍高い活性を示した。これらの結果は,クモ膜では脳実質に比べアデノシンの代謝がより活発に行われていることを示している。
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