高度情報化社会に向けて、エレクトロニクスやフォトニクス分野においては、機能性有機薄膜の開発が重要な課題である。特に、自己組織化単分子膜(SAM)法や流動配向法を用いたLangmuir-Blodgett(LB)膜法は、新しい有機薄膜作製手法として注目されている。しかし、これらの成膜プロセスやメカニズムについては不明な点が多い。新たなデバイス開発の応用には、これらをナノスケールで明らかにすることが極めて重要である。 本研究では、特異な光学特性を示す金属フタロシアニン分子のLB膜を作製した。従来のLB膜作製手法を駆使しても、それらのLB膜を成膜することはできなかった。しかし、我々の開発した流動配向法と溶液希釈法を用いることで、水面上に高秩序の膜を作製することに成功した。膜中における分子配向は、中心金属の種類に依存することが示唆された。LB膜は熱処理によって、構造がより高秩序化したことから、中心金属に配位した水分子が構造欠陥を引き起こす可能性があることを見出した。 希釈溶液下に金(111)単結晶面を浸漬させることで、チオフェンを重合したポリアルキルチオフェンの自己組織化過程を検討した。水晶振動子マイクロバランス(QCM)法による測定結果から、低濃度域におけるポリ(3-アルキルチオフェン)の吸着等温線の形状は、急激に立ち上がりを示す高親和力型となった。これは高分子特有の強いファン・デル・ワールス力が、ポリ(3-アルキルチオフェン)の金表面への吸着を促進したと考えられる。しかし、ポリ(3-アルキルチオフェン)の金表面への吸着力は強いものの、そのSAM成膜には約1週間を要し、単量体アルキルチオフェン(約1時間)に比べて極めて長時間であった。これは高分子の自己組織化過程が低分子に比べて極めて複雑であることに由来する。具体的には、吸着初期に見られる溶媒分子の抱え込み吸着やループ形態の形成など、低分子で見られない高分子効果が見られる。
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