シガトキシンのような有機分子の動的な挙動をタンパクとの関連において詳細に検討するには、タンパクを^1H NMRに匹敵する解像度で迅速に解析する手段が必須となる。筆者はMS/MSの測定においても0.1Daの解像度が得られるESI-Q-Tof-MS/MSに着目し、タンパクに結合した小分子等の位置を正確に特定する手法の開発に着手した。 本年度はカイコ卵の休眠覚醒に深く関与していると考えられている酵素(TIME-EA4)に着目し、TIME-EA4に結合することで休眠覚醒現象を調節している因子をカイコ卵の中に特定することを試みた。そこで休眠覚醒の初期状態にあるカイコ卵から未変性の状態でTIME-EA4を取り出し、TIME-EA4に結合している金属イオン、有機小分子、ペプチドを探索した。 金属イオンに関してはESI-MS及びICP-MSによりTIME-EA4一分子あたり二つの銅イオンと一つの亜鉛イオンを含むことがわかった。さらに昨年度確立した手法を適用することにより、TIME-EA4の活性部位はヒスチジンのイミダゾールを介して銅-亜鉛-銅がつながった特異な構造をとっていることが明らかになった。一方TIME-EA4に結合している因子として有機小分子は見いだされなかったが、結合している可能性のあるペプチドが複数見いだされた。
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