歯根膜は歯槽骨とセメント質という2つの硬組織の間にあって、石灰化することなく恒常的に一定の幅が保たれている。この歯根膜の恒常性の維持のメカニズムは今のところ明らかではない。S100A4は、S100カルシウム結合タンパクファミリーに属し、癌細胞において細胞の運動性や転移をコントロールするなど、様々な役割を果たしていることが報告されているが、正常組織における機能については明らかにされていない。これまでの研究で、ウシの歯根膜組織およびウシ歯根膜細胞の培養上清中においてS100A4の発現がみられ、RecombinantマウスS100A4タンパクをラット骨髄由来細胞に添加した場合、石灰化結節形成が抑制されたことが報告されている。これらのことから、S100A4は歯根膜組織において石灰化を抑制する機能を有し、歯根膜の恒常性の維持に寄与していることが示唆される。そこで、ヒト歯根膜細胞(HPDLF)におけるS100A4の発現をRT-PCR法にて確認し、その石灰化抑制機能について、アルカリホスファターゼ(ALP)活性および硬組織形成関連タンパクの発現を指標として検討した。その結果、培養ヒト歯根膜細胞においてS100A4の発現が認められ、石灰化を促進する刺激を加えることにより発現が減弱する傾向が認められた。また、S100A4に対する中和抗体を添加することで、ALPのmRNA発現および酵素活性がわずかに上昇する傾向が見られたものの、硬組織形成関連タンパクの発現には添加による影響は認められなかった。今後はRNA干渉によるS100A4の機能抑制の実験を試みる予定である。
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