コリンキナーゼ(CK)は主要なリン脂質ホスファチジルコリン生合成の初段階反応を触媒する酵素であり、その反応産物ホスホコリンは増殖シグナルのセカンドメッセンジャーとして機能する可能性が示唆されている。CKの活性調節は主にその転写レベルにおいて行われると考えられ、2つのCK遺伝子α・βの転写調節に関与する因子の解析を、マウス肝臓由来Hepa-1細胞を用いたルシフェラーゼアッセイにより行った。その結果、CK-α、-β共に転写開始点近傍ではプローモーター領域が短くなるにつれて徐々に活性が減少し、複数の因子の関与が示唆された。両遺伝子の転写開始点近傍には機能的なTATA boxは見られず、複数のSp-1結合配列、CCAAT boxが存在するなど、ハウスキーピング遺伝子の特徴が見られた。CK-α遺伝子の転写活性は転写開始点上流-875〜-866bに存在するAP-1結合配列の欠失により、約70%減少する事実を明らかにした。我々は四塩化炭素(CCl_4)の投与により肝臓特異的にCK-αの発現誘導が起こる事実を以前に報告したが、CCl_4投与後早い段階でc-Fos、c-Jun誘導が観察されており、CK-αの発現誘導がAP-1を介することが強く示唆された。またAP-1結合配列に隣接して発ガン性多環芳香族炭化水素応答配列XREが存在し、CK-αとこれらの毒性との関係は興味深い。CK-βではこのような配列は見られなかった。 ジーントラップ法によりCK-α遺伝子にneoが導入されたマウスをDr.Youngより譲り受けCK-αノックアウトマウスの作成・解析を行ったが、ノックアウトマウスは生まれてこない。そこでCK-αノックアウトマウスが胎生致死である可能性を考え、胎生10〜16日までの胎児のジェノタイピングを行ったが、ホモ接合体は得られなかった。このことからCK-αは胎生10日以前の発生の早い段階で重要な役割を果たしている可能性があると考えている。
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