平成12から13年度までの基礎研究、実験的支援研究をもとに、自閉症幼児に対する包括的なコミュニケーション指導プログラムの作成及び実験的支援を行った。これまでの研究から、自閉症児は、発達初期から相互伝達系(他者と関わること自体が目的化される伝達)や「会話」に顕著な困難性を示し、それが他者意図理解の困難性と密接に関連していることが明らかにされた。そのため、「会話」と構造的類似性をもつ原初的行動であり、かつ自閉症児にとって獲得が困難である「相互性の獲得」、すなわち相互遊び(ボールのやりとり、イナイナイバー等)の習得を目標として、「フォーマットの理解」、「自他同型性の理解」、「伝達効果の理解」という相互伝達系の下位構成要素を設定し、先行研究による発達過程をもとに、プログラムを構成した。自閉症児1名R児に対する支援を行った結果、第1期:「働きかけへの応答:共同行為への参入」(道具的他者としての認識)、第2期:「自発的な働きかけ:共同行為の成立」(行為主体としての他者認識)、第3期:相互性の獲得:というプロセスを経てターンを伴う相互遊びやルール遊び、言語や視線による要求を習得した。支援直後には、直接的に支援を行っておらず、自閉症児にとって非常に獲得が困難である提示行為と言語による叙述(3ヶ月後)が生起したことから、作成したプログラムの一定の妥当性が示唆された。
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