本研究は、「初期大陸地殻の形成と進化」及び「大陸離合集散メカニズムとマントル組成の進化」を明らかにすることを目的として、主に、太古代クラトンの一つである東南極大陸ナピア岩体について研究を行なっている。同岩体は、約38億年前以降の太古代に形成され、かつ1000℃を越える超高温変成作用を受けているグラニュライト相変成岩体である。研究手法は、偏光顕微鏡ならびに走査電子顕微鏡による岩石・鉱物の観察と、蛍光X線分析装置を用いての微量元素(特に希土類元素)を含めた全岩化学組成分析、また、特に質量分析計を用いたSm-Nd系・Rb-Sr系同位体分析と年代測定を中心に行なった。 研究の結果、調査地域に分布する片麻岩類の原岩は、太古代TTG(トーナル岩、トロニエム岩、花崗閃緑岩)やS-タイプ花崗岩、玄武岩などの火成岩類のほか、砂質岩、泥質岩、BIF(縞状鉄鉱層)などの堆積岩類であり、約33億年から約26億年前の様々な時期に形成され、約25億年前に超高温変成作用を被っていることがわかった。また、超高温変成作用後の岩体の冷却は、2-3℃/Maと非常にゆっくりとしていたこともわかった。一方、ナピア岩体に貫入する原生代岩脈類は、その産状や化学組成から先カンブリア地質体にしばしば産する大岩脈群(Giant dike swarms)と呼べるものであることが明らかになった。これら貫入岩類は貫入方向・構成鉱物・全岩化学組成・同位体分析の結果から4グループに細分され、それぞれ起源マントルが異なることも明らかになった。うち2つのグループで得られた約20億年前と約12億年前の年代値(貫入年代)は、原生代に存在した超大陸の形成・分裂に関連づけられて従来から数多く報告されている年代値に一致するものである。大岩脈群の研究は、今日、海山や海台といった若い録色岩類の形成に関連付けられており、特に下部マントルに分布すると推定されているenriched mantle reservoirの研究につながるものである。 その他の成果として、共同研究としてオフィオライト関係の研究や、南アフリカ、ベトナムの高温変成作用を被る地質帯についての研究について論文を公表している。
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