今年度は、行動課題を遂行している被験者の大脳前頭前野から単一細胞活動の記録を行った。この行動課題では、左右の手を選択して、右または左の標的に到達運動を行うことが要求された。使用する手の指示、到達すべき標的の指示は2段階に分けて与えられたため、第1の指示の後には使用する手の情報、或いは、到達すべき標的の情報を選択的に保持する必要があった。そして、第2の指示が与えられて初めて将来の動作を決定することができた。このように2段階に分けて異なる指示を与えることによって、'標的'の情報と使用する'体部位'の情報を収集・統合して、動作を計画する様子を詳細に検討することができた。自ら作成したコンピューターシステムを用いて、課題をコントロールすると同時に細胞活動のデータをハードディスクに取り込み保存した。 このようにして記録されたデータをオフラインで解析したところ興味深い結果が得られた。第1の指示が与えられると、前頭前野の腹側部の細胞は視覚刺激を強く表現していた。その一方で、背側部の細胞は与えられた指示の内容、即ち手の使用の指示と標的の指示を区別して表現していた。更に、第2の指示が与えられると、前頭前野の腹側部の細胞は再び視覚刺激をよく表現していたのに対し、背側部の細胞は与えられた2つの指示の内容を統合して、将来の運動を表現していた。これらのデータは行動の戦略形成において、大脳前頭前野が領域特異的に関与している可能性を示唆している。
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