現行のニホンウナギ人為催熟法では、全ての雌個体が成熟する率は低い。そこで本年度私は、これまで精子形成誘起ステロイドとして知られている11-ケトテストステロン(11-KT)を用いて初期卵成長を促進し、全ての雌個体を成熟させることを試みた。まず、雌の血中に11-KTが存在するかを確認した。その結果、卵巣の発達に伴い、血中11-KT量は増加することが判明した。次に、11-KTの産生部位を確認した。その結果、卵巣で主に11-KTが産生されていることが明かとなった。また、卵巣中の11-KT合成酵素の一つである11β-水酸化酵素の活性及びmRNA量を定量したところ、卵巣の発達に伴い増加していた。さらに卵巣中の11-KTの受容体である二種のアンドロゲンレセプターも卵巣の発達に伴い増加していた。これらの結果より、主に卵巣で11-KTが産生され、卵巣の発達になんらかの関わりを持つことが示唆された。そこで、実際に未成熟ウナギに11-KTを投与することによりその影響を検討した。その結果、11-KT未投与群に比べ、11-KT投与群の方が、油球の蓄積など著しい卵の成長が認められた。また、排卵直前の個体に11-KTを投与し、卵質への影響を検討した。その結果、11-KT未投与群に比べ、11-KT投与群の方が、囲卵腔の幅が広く天然のウナギ目魚類の卵形態に近いように思われた。この結果は昨年度のアロマターゼ阻害剤を用いた実験でアロマターゼ阻害剤処理を施した個体の11-KT量が増加し、囲卵腔の幅が広い卵がとれたことと一致した。 昨年度及び先述の内容は、日本水産学会にて報告及び今年の日本水産学会にて発表を行う予定である。私が日本学術振興会の特別研究員として3年間行ったニホンウナギ卵巣におけるステロイド合成の制御機構という研究の結果は、より天然状態に近いウナギの卵を得るための人為催熟法を開発できただけではなく、初期卵成長を促進することができ、ウナギだけではなく他魚種への応用が期待され、様々な魚種の人工種苗生産の技術開発に貢献できたと確信している。
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