研究概要 |
近年,外場により物質の状態を制御し,デバイス特性に生かす試みは盛んに行われている.その中で,光誘起相転移現象は光記録デバイスなどへの可能性から注目されている.また,新しい相転移現象が示す動的特性は緩和現象の分析という立場からも興味深い.温度や圧力などの外場により個々のスピンが磁性(High Spin),非磁性(Low Spin)状態の間で遷移する現象はスピンクロスオーバー現象としてこれまで詳しく調べられてきており,光による相転移が新しいターゲットとなっている.本研究はスピンクロスオーバー現象の機構の理解と、更に光照射により発現する新たな現象の理解を目指している. スピンクロスオーバーのhigh spinの割合の温度による変化の大きさから原子間の相互作用の強さの目安を与える方法として,ドメインモデルと呼ばれる解析方法が,徂徠らによって提唱され現象の解析に用いられている.その変化の大きさを特徴付けるマクロなパラメーターとWAJNFLASZモデルと呼ばれるスピンクロスオーバー現象を説明する統計力学モデルのミクロなパラメーターとの関係付けを行った.今まで現象論的に用いられてきたパラメーターと統計力学モデルのパラメーターの関係を明らかにしたことにより,実験および理論的研究の上で,現象の解析において新しい有用な知見が得られると期待される。更に,2段階相転移の現象を説明する統計力学モデルをモデル化し,その静的,動的性質を明らかにし,対応する実験結果の考察も行った. 上記以外にも,量子現象が観察され,その基礎的あるいは応用上の重要性から注目されている磁性体のトンネルダイナミクスについて,研究を行ってきた.特に、Fe8(S=10)の系に注目し,トンネルプロセスにおけるノイズ(周囲の環境との結合)の効果を調べた.Landau-Zener-Stuckelberg(LZS)の公式を適用する場合の、磁場掃引速度やノイズの大きさの条件を明らかにした.
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