研究概要 |
本年度は重粒子線が生体細胞に及ぼす影響を調べるため確立した手法の特性評価およびその応用を行なった。手法はCR-39プラスチック飛跡検出器上に重粒子飛跡と細胞像を共に写し込み同時に観察するもので、飛跡位置測定の分解能及び細胞の軟X線透過イメージングの分解能はAFM観察により共に100nm以下であることが昨年度までに確認されている。 本手法をがん硼素中性子補足療法における細胞内硼素分布測定のための高分解能αオートラジオグラフィ手法として考えた場合、要求されている細胞内構造レベルでの硼素分布測定を行なうのに十分な分解能を有しているといえる。本年度の研究でαトラック密度と硼素濃度との間には良好な線形性が確認され、バックグラウンドとして発生しうるプロトンの量及び弁別能なども評価を行ない、細胞内硼素分布を定量的に測定する準備が整った。 そこでBSH, BPAという2種の薬剤について本手法を用いて細胞内硼素分布測定を行なったところ、(1)BPAはBSHの数倍多く取り込まれること、(2)BPAは細胞内に均一に、BSHは核膜や細胞膜上に特異的に分布していること等が明らかとなり、薬物輸送に関する知見を得ることができた。これらの結果は医学系一流紙に投稿中である。 ところで軟X線細胞イメージングではこれまで軟X線源として大規模施設で放射光を利用したり、出力や安定性に不満の残るレーザプラズマなどを使用したりしなくてはならず、必ずしも扱い易くなかった。そこでより簡便な方法として紫外線を用いた細胞イメージング法を新たに開発した。紫外線源として市販の殺菌灯を用いることでX線顕微鏡同様の透過イメージングが可能で、細胞内の紫外線吸収コントラストがCR-39プラスチック上のレリーフとして現像後に現れることがわかった。分解能も200nmという値が得られており、簡便で広い応用が期待できる。こちらの成果は応物系一流紙に投稿中である。
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